「パワフル立石の巻」(ジャンプ・コミックス第177巻収録)

今回は、両さんが中川と麗子を立石の「吞んべ横丁」に連れて行くお話をお届けする。

「吞んべ横丁」とは、1000円で気軽に飲み食いして酔える「せんべろの街」として知られた、東京都葛飾区立石の京成立石駅前の飲み屋街を指す。

迷いそうな狭い路地に、店と住居兼用(?)の小さな木造建築がひしめき合うこの横丁は、もともとは戦後に形成された、さまざまな種類の店舗が軒を連ねた商店街「立石デパート」だった。中小の工場が増えた高度成長期に、労働者たち向けの盛り場に特化していった。なお、かつて工業地帯だった土地がマンションの立ち並ぶ住宅地になっている点は、亀有と同様だ。

ちなみに立石は亀有から3kmほど南に位置し、葛飾区役所や(本物の)葛飾警察署が置かれている、いわば葛飾区の行政の中心地だ。

本作扉絵に描かれたミニFM局は1997年に開局した区民向けのラジオ放送局で、区役所の敷地内に存在している。ネットを介してPCやスマホで聴くこともできるので、葛飾のローカルな話題をチェックしてみるのも一興だ。

そして、2010年に描かれた本作中でも触れているが……この横丁は大規模な再開発計画に基づき、2023年に終焉を迎えた。高度成長期の活気と混沌の思い出とともに、この手の横丁は次第に姿を消していく。

その一方で、「横丁」の名を冠する商業施設が、恵比寿、渋谷、新宿歌舞伎町、虎ノ門、上野、浅草……などに次々と登場している。店舗同士の間の垣根を取り払った横丁スタイルを現代に甦らせているのだ。だがそこでは気安さや値段の手軽さはそれほど感じられず、大資本の思惑や過剰な演出、地元の労働者よりもインバウンド需要を重視している……そんな印象を受けることも少なくない。

はたして21世紀のニュー横丁が定着するのかどうか、今後の行方を見守ってみたい。

それでは次のページから、庶民の憩いの場だった立石「吞んべ横丁」へとタイムスリップして訪れてみてください!!