国会での議論にも発展

裁判所が、選手会が団体交渉権を持つことを明確に認めたことは大きかった。

更に決定文の最後に「これまでの(NPBの)労働組合との交渉は誠実なものとは言えない。万一、誠実交渉義務を尽くさない場合には不当労働行為の責任を負う可能性があり、野球の権威に対する国民の信頼を失う」「コミッショナーは著名な法律家であり、裁判所が団体交渉権を認める判断をすれば、9日からの交渉においてこれを尊重することが期待される」と記されていた。

NPBは、選手会が都労委から資格認定を受けていたにも関わらず、長年に渡って労組と認めようとして来なかった。

言葉の使い方にしても「労使交渉」を「事務折衝」と言い換えたり、正面から向き合おうとせず、「ストをすれば違法行為になるので損害賠償を求められる」と言うデマも、そもそも労組として認めていないというブラフからきている。

しかし、この裁判所の決定は選手会を団体交渉権のある労働組合として認めたばかりではなく、これまでのNPBの不誠実な態度まで指摘した。

根來コミッショナーが検察官時代から政治的な動きをする人であることを裁判官は知っていたのか、そのプライドをくすぐる期待と同時に痛烈な皮肉になっている。

経営者側は、労組に対してきちんと交渉に応じる義務がある。出来なければ、誠実交渉義務違反、すなわち不当労働行為になる。NPBの姿勢、そして根來文書が否定されたことは極めて大きな意義があった。そしてストライキに向けての権利を確認することができたのである。

9月に入り、古田は、9月9日・10日の大阪、16日・17日の東京と二度にわたってNPB側と交渉に当たった。それまでにストをするならば、週末に試合がある土日に行うということを選手会として公に宣言していた。

該当する11日、12日、18日、19日、25日、26日を決行予定日と目しており、折衝日はその前の木金の曜日に設定していた。

1回目の大阪での交渉ではNPB側は一転して、態度が軟化していた。「誠実に交渉する義務がある」という裁判所の判決が、明らかに追い風になっていた。

ここでNPB側は、「現行の新規加盟料・参加料を撤廃して、預かり保証金など環境を整え、新規参入球団の加盟促進を積極的に検討する」ことに合意したが、球団数については「来季セ6以上、パ5以上」を確約するに留まった。

前述の司法判断の影響もあって、それまでのすべてが却下されていた交渉に比べれば、各段の進歩であり、結果的にスト突入期限の20分前に暫定合意で回避されたが、古田は握手を求めてきた西武の瀬戸山隆三選手関係委員長の右手は握らずに会場をあとにした。

選手会の顧問弁護士である山崎卓也は、11球団になってしまったらその段階で負けだと思っていた。

一度減ってしまったところからまた増やすことは現実的ではなく、10球団、8球団と減少していくのは目に見えていた。そうなればプロ野球界はじり貧になる。

そうなる前に今、実際に新規参入をしたいという企業が出て来ている以上は、それを認めて12球団堅持を確約させることが重要と考えていた。

すでに8月の段階で、当時の民主党議員の協力もあって、国会で「60億円の加盟金は高過ぎる。これは独占禁止法に触れるのではないか」との質問が行われ、これに対して公正取引委員会が「60億円が合理的といえるだけの根拠がNPBから示される必要がある」との答弁を引き出していた。

これで加盟金は、半額の30億になり、またその内、25億円はデポジット扱いで加盟から抜けたら返却されるという制度に変わった。実質、5億円で参加できることになり、加盟のハードルが一気に低くなったのである。

そして9月15日にはホリエモンのライブドアに続いて三木谷浩史の楽天グループが球界参入を公表した。