遺族も“地元”のステージに上がった

Candee/Deechの主催イベント『WELCOME TO SOUTHSIDE』の約2カ月前、5月1日にある事件が発覚していた。

川崎区大師駅前の住宅を神奈川県警がストーカー規制法違反容疑で捜索、白骨化した遺体の入ったバッグを押収。遺体の身元は前年12月から行方不明になっていた岡崎彩咲陽(あさひ)さん(当時20)と判明した。

そしてその住宅に住み、前年から彩咲陽さんをストーキングしていた白井秀征(ひでゆき)被告(28)が、アメリカから帰国したところを死体遺棄容疑で逮捕される(5月28日にはストーカー規制法違反容疑で、7月12日には殺人容疑で再逮捕。2025年8月現在までに死体遺棄罪とストーカー規制法違反で起訴)。

白井被告は、CandeeとDeechがかつて所属していた川崎区のラップグループ〈OGF〉のメンバーだった。

詳しくは後述するが、CandeeとDeechは彩咲陽さんのことも彼女が幼い頃から知っており、行方不明になった時点でSNSを通じて情報提供を呼びかけていた。

事件発覚直後にはライブのMCで被害者への追悼と、遺族へのサポートを訴えかけている。またそこでも言っていたように、白井被告とは4年ほど前に袂を分かっていた。

ただそれほど近い場所で、近い時期に起きた事件について、主催イベントではあえて具体的に触れなかったのは、事件がセンセーショナルなものとして消費されることを拒み、その痛みを彼らの表現として昇華していきたいという考えがあったからだろう。

その上で、CandeeとDeechは今回の取材を受けてくれた。本記事がこの悲劇的な事件の背景を理解するための助けになればと思う。

「事件があって、川崎も自分たちのイメージも汚されてしまったようなところがあります。『お前らも仲間なんだろう』みたいな感じで。実際には白井とはだいぶ前から別の道を進んでいたけど、それを知らない人からしたら仕方がないのかなとも思う」

CandeeとDeechは言う(以下、Candeeの発言は〈C〉、Deechの発言は〈D〉で表記)。

C「ただ、だからこそ、今回のライブは『WELCOME 2 SOUTHSIDE』というタイトルにしました。‟サウスサイド”は川崎市南部(川崎区)の意味。全国からいろいろなアーティストを呼んだし、先輩の(元)BAD HOPの人たちを始め、川崎区のアーティストにも出てもらった。

やっぱり全国から来てくれるだろうお客さんには川崎で遊んで、この街の良さを知ってほしかった。そうやってネガティブなイメージを払拭する。それが今、自分たちにできることだと思っています」

7月15日に川崎〈クラブチッタ〉で行われたCandeeとDeechのツーマンライブ『WELCOME 2 SOUTHSIDE』
7月15日に川崎〈クラブチッタ〉で行われたCandeeとDeechのツーマンライブ『WELCOME 2 SOUTHSIDE』

「My Block」(“地元”の意味)という曲で、彩咲陽さんの遺族を含め、たくさんの友人/知人、そして彼らの子どもたちをステージに上げたのには、そのようなメッセージが込められていただろう。

『WELCOME 2 SOUTHSIDE』で披露された「My Block」(撮影/西村満)
『WELCOME 2 SOUTHSIDE』で披露された「My Block」(撮影/西村満)