毎日のようにいた白井被告の家
CandeeとDeechはカサブタを剥がすように、過去を振り返ってくれた。
2人の出自を正確に言うと、Candeeは川崎区出身。Deechは東京都大田区出身で、高校時代に川崎区へ移住した。Candeeは被害者遺族である岡崎家とは、若い頃から付き合いがあったという。
C「岡崎さんの家には10代の頃、よく遊びに行っていました。そこに彩咲陽さんもいたと思うんですけど、歳が離れているのでまだ小さくて、記憶の中の姿と大人になった姿が結びつかなくて。ただ、僕らのことは覚えてくれていたみたいです」
岡崎家の兄弟にも、ラッパーが何人もいる。彼らが楽曲を通して彩咲陽さんを追悼する姿には、川崎区の文化を感じた。
D「弟さん(K-WILY)は事件の前、地方で僕のライブに来て、挨拶をしてくれたことがあって。そのときは『こんな若い子がラップをやるんだ。やっぱり川崎だなぁ』と思いましたね」
そしてCandeeとDeechは彩咲陽さんの遺体発見現場である白井被告の自宅にもよく足を運んでいた。
C「あそこには、10代の終わり、〈OGF〉を始めた頃は毎日のようにいましたね。特に僕とDeechと白井と、3人で遊ぶことが多かった。だからあんなことが起こるなんて、家の中を想像できるからこそ怖いです」
さかのぼると、Candeeと白井被告が出会ったのは小学生の頃だという。学校は違ったが、所属していたサッカー・チームが同じだった。中学生時代はほぼ付き合いはなく、行動を共にするようになったのは、〈OGF〉が始まってからだ。
C「〈OGF〉はもともとはギャングチームみたいなものだったんです。自分たちの世代にも暴走族はいましたけど、僕らが選んだのはギャングというスタイルで。でも、そこに白井はいなかった。それが『ちゃんとラップグループとしてやろう』っていうときに……誰が連れてきたんだろう? いつの間にかいたっていう感じで」
CandeeとDeechは〈OGF〉名義で2020年に発表したアルバム『DROP OUT』以降はグループから離れ、白井被告とも疎遠になる。ラッパーとして成功しつつある2人は、今、かつての仲間が起こした事件についてどう向き合うのだろう。
後編〈独占取材〉なぜ川崎の不良少年は新進気鋭ラッパーに変われたのか? CandeeとDeechが語る仲間との決裂、拉致、そして“あの事件” に続く
取材・文/磯部涼