初任給7万円で戦場へ行く日本人

――軍隊もヤクザも、どちらも想像の及ばない世界ですが、横田さんがフォーカスした45歳のケンさんは元兵士でも、元ヤクザでもなく、ホテルや出版社で働くサラリーマンでした。

ケンさんが義勇兵になるきっかけが「離婚」というのがリアルでいいんです。幼い息子さんに会えなくなってしまい、仕事にも身が入らず、悶々としているうちに、多くの子供たちが戦火の犠牲になっているウクライナに心を奪われる。私にも娘がいるので、ケンさんの気持ちがまるで分らない、というわけではありません。

横田さんが撮影した3人の日本人義勇兵。左から元ヤクザのハルさん、ケンさん、スズキさ
ん。
横田さんが撮影した3人の日本人義勇兵。左から元ヤクザのハルさん、ケンさん、スズキさ
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――軍歴のない45歳のケンさんが、約1カ月間の新兵訓練だけで戦線に投入されることにも驚きました。そして、義勇兵にも給与が生ずるという事実にも。

初任給は7万円だったそうですが、翌月からは増額されたようです。義勇兵たちの話をまとめると、20万円ほどの基本給に加えて前線に出るときは10万円程度の手当、月の稼ぎとしては30万~40万円ほどではないかと推測しています。

――日本のサラリーマンとしては悪くないですが、命を懸ける値段と考えると……。

エンベッド(部隊の中で兵士と共に生活する従軍取材)のときも同じですが、兵士には寝る場所と食事が保障されるので、生活費が丸ごと手元に残ります。ケンさんはほとんどを息子の養育費に回しているそうです。

――横田さんの目には、ケンさんが「どんな人物」に映りましたか?

「戦火に苦しむ人たちを救いたい」という信念に嘘はないと思います。同時に、死ぬかもしれない極限の状況下で、自分の能力を試してみたい。そうした気持ちも本音としてはあるでしょう。そのエゴが人助けにつながるならば、戦場で命を落としたり、負傷することも本望なのかもしれません。

有名になりたいという動機で義勇兵になった目立ちたがり屋の多くは、早々に去りました。私が会った義勇兵たちは今もウクライナで戦っています。

取材・文/山田傘 写真/横田徹