次世代が戦争に巻き込まれないための祈り
──『野火』(2014)、『斬、』(2018)に続き、監督は新作『ほかげ』(2023)でも戦争の痛みを描いていますが、本作について「どうしても作らずにはいれなかった祈りの映画」だとコメントされていますね?
塚本晋也(以下、塚本) 『ほかげ』の準備をしているときに、ロシアとウクライナの戦争が始まりました。この戦争は、これまでの歴史を踏まえてもまったく違うものだと感じたんです。今の時代にこんなに突然、襲いかかるように勃発する戦争はあるのかと、正直、絶句しました。
僕がとても心配しているのは、次世代の人たちが戦争という恐ろしいものに巻き込まれてしまうのではないかということです。その危険がだいぶ高まっているように感じてしまいました。そうならないように、という祈りを込めて、この映画を作っています。
森山未來(以下、森山) 昔は情報を共有するツールが今ほどなかったから、戦争をする意味、大義名分を作ることができたのではないでしょうか。でも今回、ロシアがウクライナに戦争を仕掛けたのも、アメリカのイスラエルへの介入についても、情報社会になったことで、いろいろなことが露呈しているように感じます。
塚本 情報の共有はとても大事です。情報がきちんといかないところ、情報をシャットダウンするところでは、権力者に都合のいい偏った情報しか出てこない。そこがもっとも危ないことだと思います。
──塚本監督が想いを込めた『ほかげ』の脚本を受け取り、森山さんはどのようなことを感じましたか?
森山 僕はまず塚本さんから声がかかったというだけで、この映画に飛びつきました。役に関しては、塚本さんと話し合いながら、演じるテキ屋のキャラクターのバックボーン、衣装、髪型、振る舞いについて考えました。
塚本 『ほかげ』では、闇市に渦巻くカオスな世界を描きたいという気持ちがありました。森山さんが演じたテキ屋さんをはじめ、愚連隊、ヤクザなどがいる本当に混沌とした世界だったので、それが描けたらいいと。テキ屋さんのプロフィールは映画で詳しく描かれていませんが、設定を森山さんにお話したところ、見事に体現してくださいました。