開店から2か月ちょっとでまさかのハプニング

そうしてようやく開店した念願の自分だけの城。だが軌道に乗ったとたんに、トラブルが襲う。開店から2か月ほど経った初夏のことだった。

「ある日、足がすごく腫れちゃって……。熱も39度くらい出て。営業中だったんですけど、閉店15分くらいに前に、無理だと思って店を閉めて、病院に行ったら即入院することに。そこから、1か月以上休業することになってしまいました」

ようやく店に立てるようになったのは7月半ばのこと。時間を短くしながらの営業再開。以前来てくれていた常連の姿はまだ戻りきっていないが、「また一から、積み上げていくしかない」と語る。

「やっぱり“おいしかった”って言われると、うれしいんですよね。自分でつくって、自分で出して、それで喜んでもらえるっていうのが、一番やりがいになります。常連さんの定着は、それだけおいしいと思ってくれているんだという励みになっています」

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これからは新メニューの開発など、飽きられない工夫も続けていきたいという。まさに、自分ひとりに決定権があるからこその楽しみだ。

50歳を過ぎて一から修業を重ね、自身の理想をかたちにした店主。どんな時代になっても「立ち食いそば」の火が絶えないのは、こうした小さな熱を灯し続ける職人がいるからだろう。

取材・文/ライター神山