製麵所との奇跡の出会い

「そこで全部やらせてもらえたのは、本当にありがたかったです。自分でやるために必要なことを、全部経験させてもらえた」

だが、今の時代に立ち食いそばを始めるのは簡単ではない。物価高騰で、軒並み値上がりをしている。

「イカも高いし、お米も肉も全部値上げ。ガス代や冷房代もびっくりするような値段。しかも今後さらに(トランプ)関税とかで上がるかもしれない。でも、自分のやりたいことができるっていう満足感はあるんですよ。

あとは、家族経営でやってるので、そんなに人件費がかかってるわけでもない。お店を続けられて、生活できればいいかなっていうのがあります。それに、今この物価水準で始められたっていうのは、結果的によかったとも思っています。前の時代の価格帯で始めていたら、今ごろ苦しかったと思います」

確かに、値上げを前提とせずに始めた既存店が苦しむ中、梅市は“いま”に合わせたスタートダッシュを切れた。

「もちろん楽じゃないですけど、物価高騰で苦しいのはどこも一緒だと思っています」

そして店を開く以上は味にこだわる。天ぷらの揚げ直しはもちろんだが、もうひとつ、味に関して外せない話がある。麺だ。

注文を受けてから、丁寧にそばを作る店主
注文を受けてから、丁寧にそばを作る店主

「いろんな製麺所を試したんです。どこの麺がいいかなって、食べ歩きの際も気にしながら見ていました。ですが、ピンとくるところがなかなかなくて……」

そんな中、ふと通ったことのない裏路地で偶然見つけたのが「岩野製麺所」。少人数で営む、小さな製麺所だった。

「本当にたまたま見かけて、小売りもしていたので購入。家で食べてみたらすごく美味しくて。家族にも好評。これだって思いました」

梅市で提供されるのは、その岩野製麺所の生麺。少し太めで、冷やしにすると特にコシが際立つ、モチモチの食感が特徴的だ。店主イチオシの「冷やし肉ラー油そば」は、この麺のポテンシャルをフルに発揮した一杯となっている。

混ぜそばのようにして食べる「冷やしラー油肉そば」(750円)
混ぜそばのようにして食べる「冷やしラー油肉そば」(750円)

「ただ、太い分、茹でるのに3分くらいかかるんです。だからお客さんをお待たせしちゃうこともあって……。でも、少し待ってもらってでも、美味しいのを出したいという思いがあります。それだけはちょっとこだわってますね」