「りりちゃん」の撒く一万円札を求めて伸びている
渡邊被告は「ごくちゅう日記」の中で、拘置所での自室を、解説つきのイラストで紹介したことがあった。そこに描かれていたのは、『ちいかわ』のタオルケットに覆われた布団と枕、そして布団を取り囲むようにして置かれる、やはり『ちいかわ』の靴下や、シロクマの模様がついたタオル、机代わりに使っている籠には犬がテーマの本や写真集が並べられている。
それらはすべて、ファンからの差し入れだという。そして布団の脇には大ファンであるアーティスト・大森靖子氏からだという手紙が置かれ、棚の脇には、漫画家のきたしま氏が描いた『頂き義賊リリちゃん』と題したイラストが飾られている。
「ごくちゅう日記」で「すごくお気に入り」だと綴っていたそのファンアートは、YouTubeに登場していた頃と同じ、アッシュブロンドに、胸元とおへそ部分が開いたさくらんぼ柄のピンクの服。ミニスカートから太もももあらわに、千両箱の側に倒れている男性を踏みつけ、一万円札を撒き散らす。手首に包帯を巻いた女性の手、キレイにネイルされた女性の手……たくさんの手が、「りりちゃん」の撒く一万円札を求めて伸びている。その様子は、あたかも彼女からの「救済」を求めているかのようだ。
渡邊被告は、飾り立てた獄中でひとり、どんな気持ちでこのイラストを眺めているのだろうか。
自分を気遣ってくれる女性看守を「ママ」と呼んで甘え、ファンが差し入れた本を読み、自身を称賛する手紙を読み返す。そこには、あくまでも、自分と、自分の崇拝者しかいない。
彼女は、無意識のうちに「りりちゃん」という華やかな牢獄を作り、そこに留まることを望んだのかもしれない。