昔の雰囲気が感じられる水族館に注目

荒俣 印象的だった水族館というと、いちばんすごいなと思ったのは以前のナポリ水族館ですね。日本でいうと、でっかくなっちゃう前の鳥羽水族館(三重県鳥羽市)の感じによく似ていたんだけども。いまだったら、空調の設備とか、ばっちりしてるじゃないですか。でも昔はそうじゃなかったからね。

夏になると水の温度が上がるから水槽の中は一生懸命冷やすけど、予算の問題で館全体にはクーラーを入れられないんですよ。それで何が起きたかというと、水槽のガラスの面に、水温と気温の差で水滴が溜まっちゃってたんですね。それでその水滴がポタポタ落ちるから、中が全然見えなかったってことをよく覚えていて。あ、これが昔の水族館かって思ってじわっと泣きました。「これこそは水族館の原点だ。“夏は見えない”っていうのが」って。

かつてのナポリ水族館も、古くてね。予算がないから改修できていなくて、19世紀のままのものが残ってたんですよ。いまはもう改修しちゃったけど、そのときはガラス全部に水滴がついていました。タオルとかを持っていって拭きながら見るっていうね、これが水族館の原点かっていうのが実感としてわかりました。

だから、2000年を超えてからできた、あるいは改修した水族館がもう眩しくて眩しくて。これはすごい! と思いましたね。

Zoomで対談中のなんかの菌さん(上)と荒俣宏さん(下)。
Zoomで対談中のなんかの菌さん(上)と荒俣宏さん(下)。

なんかの菌 確かに、新しい水族館って、めちゃくちゃ綿密に計算されていますよね。光とか水槽の角度とか見る順路とか、すごく計算されてるので、それがすごいところではあるんですけど。

私のお気に入りの水族館というと、ひとつは姫路市立水族館(兵庫県姫路市)ですね。ここはそういう計算しつくされた水族館とはある意味真逆というか、すごくカオスなところがよくて。見る順番も一応はあるんですけど、見てまわる実感としては、こっちに海水の水槽があって、こっちに淡水があったのに、また海水かい! みたいな感じで。そういうカオスさが、昔の水族館はあったんだろうなと思って。

荒俣 あったねえ。非常にありましたね。

なんかの菌 逆に、私の世代としてはそれが新鮮なのかもしれないです。こういう水族館は、やっぱり行って楽しいですね。