フェミニズムも戦争を肯定する

 なるほど。たくさんの重要な論点を提起していただいたと思うんですけども、まず、ヨーロッパが価値を体現する存在として、長く世界に君臨してきたという件。おっしゃったように欧米では「西洋イコール人類」と考えている節があって、リベラルは「人権」とかのお題目は唱えるけれども、結局自分たちの利益になることしかやってこなかったのではないかと。

日本でも「欧米は進んでいる」とリベラルは言うけれど、でも実際は全然進んでいなくて、綺麗事を言っているだけでダブルスタンダードで開き直っている。そう思えてしまう今の状況は、まさに民主主義の危機だと思います。結局、お金を儲けたもの勝ちというか、法律を守るのではなく、システムの隙を突いて、ハックして、たくさん稼いだ奴が偉いんだみたいな。トランプもそうですし、マスクもそう。日本でもそういう人たちがSNSを中心に崇められています。

三牧 そうですね。

 はい。たしかデヴィッド・グレーバーの『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』(岩波書店)に書いてあったと思うんですけど、アメリカの貧困層の人たちは、自分が教養を身につけることは想像できないけれども、億万長者になる想像はできるのだと。難しい古典を読んだり、外交に詳しくなったりする自分は想像できないけれど、ユーチューバーになって一発当てるといった夢は見ている。

そっちのほうがリアリティを感じられるという傾向が、今の混沌とした世界情勢で増幅されている。そうなるとやはり、「法の支配や人権を遵守するべき」と主張しているリベラルは、肩身が狭くなっていくとは思います。

戦争を肯定するフェミニズム、イスラエルの虐殺を止めることができないG7…西欧の民主主義の死_4

僕は『Z世代のアメリカ』で、「フェミニズムと戦争の関係」の話を非常に興味深く読みました。「アフガンの女性たちを解放する」という名目で、フェミニズムがむしろ戦争を促進することに利用されている。フェミニズムが反戦につながる場合と、戦争を肯定することにつながる場合がある。一体どういう条件で変わるのでしょうか?

三牧 フェミニズムについては巨大な学問的な積み上げがあり、私は専門家とはとてもいえませんが、アメリカの外交政策や戦争を研究してきた人間としては、「最も傷つきやすい弱い人たちを守る」ということ、「命を奪うのではなく守る」ということが、その思想の中核であってほしい。フェミニズムの大義である「女性の権利」が、戦争に利用されている状況は、大変矛盾した状況ですよね。

2023年10月7日にパレスチナ自治区ガザを拠点とするイスラム組織ハマスの攻撃があり、その後、イスラエルがガザで大規模な軍事行動を開始しました。現時点でハマス保健省が発表しているだけでも55,000人もの人々が亡くなっている。

このイスラエルの軍事行動に関しても、アメリカの著名なフェミニストたちは沈黙し、さらには「10・7にハマスによるイスラエル女性の集団レイプがあった」と掲げて、ガザでのパレスチナ人虐殺を正当化している。10・7のレイプについてはハマス側は否定しており事実関係が争われていますが、もしそれが事実でも、ハマスによるレイプによって、女性や子どもの犠牲が7割を占めるともいわれるイスラエルの残虐な軍事行動を正当化することなどできないはずです。

「ガザの住人はみんなハマスだ」という発想で、ヨルダン川西岸も含めたパレスチナの住人の全てが攻撃の対象になっていますが、この虐殺に抗議したフェミニストたちは、欧米では「ハマスのシンパ」「テロリスト擁護」のレッテルを貼られて、口を封じられていました。

残念ながら、ガザ危機は欧米のフェミニストの多くが、普遍的に暴力に反対しているわけではなく、暴力にさらされているのが白人かどうか、欧米と近いかどうかで、暴力に反対するかどうか態度を変える「ホワイト・フェミニスト」であることを明らかにしました。

2001年の9.11テロ後、アメリカがアフガニスタンに侵攻した時と本質的に変わっていない。アメリカは、「テロリストを匿っている」とアフガニスタンのタリバン政権を攻撃し、さらにタリバン政権が女性を抑圧していると批判して、自分たちは「女性を解放する戦争」をやっているのだと戦争を正当化していきました。女性の抑圧は重い問題ですが、だから戦争をしてよい理由にはならない。重大な論理のすり替えが行われました。