「年をとって記憶力が落ちても心配しなくていい」「年齢を重ねてこそ高まる脳の能力もある」と脳科学者・茂木健一郎が断言する根拠
「最近、記憶力が衰えてきてマズい……」「もう若い人には勝てない」「年を取ったから自分はもう活躍できない」そんなふうに思っている高齢者も多いのではないだろうか。しかし、脳科学者の茂木健一郎氏によると、それは大きな間違いだという。
最新著書『60歳からの脳の使い方』より抜粋・再構成し、解説する。
60歳からの脳の使い方#1
年を重ねてこそ深まる能力もある
年を取ったら、すべての能力が若者に劣るわけではありません。
年齢を重ねてこそ高まる脳の能力もあります。
その代表的な例は、物事を考えるや洞察力、決断力などでしょう。これらは、年齢を重ねるほどに鋭くなっていきます。その理由は、脳の学習メカニズムが生涯を通じて進歩し続けるためです。
ワシントン大学が約5000人を対象として半世紀以上行った「シアトル縦断研究」によれば、認知能力を測定する6種のテストのうち4種で、高齢者が20代よりも優れた結果を示しました。特に、言語能力、空間推論力、単純計算力、抽象的推論力は年齢とともに向上しています。言語能力に関していえばピークを迎えるのは60歳頃で、その他の能力に関しても、明確に低下していくのは80歳以降という結果が出ています。
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事実、世界を見渡してみると、70代、80代になっても輝き、すばらしい業績を残し続ける人も多数存在します。
僕自身が「この人はすごい!」と思ったシニア世代の一人が、英国ケンブリッジ大学への留学時代に出会った恩師であるホラス・バーロー教授です。
1921年生まれのバーロー教授はチャールズ・ダーウィンのひ孫で、世界的な陶磁器メーカーのウェッジウッド家とも縁がある方です。教授が所属していたトリニティ・カレッジは800年以上の歴史を持ち、アイザック・ニュートンや哲学者のバートランド・ラッセル、ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインなどの偉人が輩出した名門としても知られています。バーロー教授は2020年に亡くなりましたが、晩年まで精力的に研究を続け、年齢とともにその思考が進化していることを常日頃から僕も実感させられていました。
年を重ねるにつれて多くの経験を積み、心身ともに成熟し、豊かで成熟した人生を送る。そんなバーロー教授の人生には、僕自身も憧れてしまいます。
「年を取ったから自分はもう活躍できない」「若い人に道を譲らなければならない」などと思い込む必要はありません。むしろ、年を重ねてから発揮できる脳の力を、存分に発揮して、これまでは体験できなかったような新たな一歩を踏み出してほしいと思います。
文/茂木健一郎
2025年6月29日
1100円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4594100520
脳科学の最新研究でわかった、脳はいくつになっても成長します! ・「もう年だから」をやめると脳は元気になる ・シニアこそAIで脳を若返らせよう! ・「生きがい」を持てば、迷いはなくなる 脳科学者・茂木健一郎氏が教える、今日から豊かなセカンドライフを実現する秘訣満載! 人生100年時代といわれるいま、60歳=「還暦」は人生の折り返し地点という意味合いが強まっています。 これまでずっと会社で働いてきた人が定年を迎え、「さあやっと自由だ」と言わんばかりにセカンドライフとしてあたらしいことに挑戦する元気な人がいる一方で、「ずっと家にいる」「急に元気がなくなった」「突然運動できなくなった」……という人も増えています。その違いはどこにあるのでしょうか。 それは、脳に新しい刺激を与える「生きがい」を持っているかどうかだ、と語るのは脳科学者として人気の茂木健一郎氏です。「生きがい」は難しいものではなく、生活のあらゆるところに見つけることができる、と説きます。 そしてそんな「生きがい」があれば、「もう年だからできない」といった、わたしたちが無意識に持っている「エイジズム(年齢に基づく固定観念)」から脱却し、日々をポジティヴに生きることができるようになります。 そこで、脳科学者・茂木健一郎氏が、最新の脳科学の観点から、何歳になってもボケない・若返る脳の使い方を詳しく解説。「いつまでも元気なあの人」はなにが違うのか、著名人の例を挙げわかりやすく説明します。また現代の日本社会を覆う「老害」問題にも茂木氏ならではの視点から斬り込みます。「老い」をポジティヴにとらえなおすための一冊です。