年を重ねてこそ深まる能力もある
年を取ったら、すべての能力が若者に劣るわけではありません。
年齢を重ねてこそ高まる脳の能力もあります。
その代表的な例は、物事を考えるや洞察力、決断力などでしょう。これらは、年齢を重ねるほどに鋭くなっていきます。その理由は、脳の学習メカニズムが生涯を通じて進歩し続けるためです。
ワシントン大学が約5000人を対象として半世紀以上行った「シアトル縦断研究」によれば、認知能力を測定する6種のテストのうち4種で、高齢者が20代よりも優れた結果を示しました。特に、言語能力、空間推論力、単純計算力、抽象的推論力は年齢とともに向上しています。言語能力に関していえばピークを迎えるのは60歳頃で、その他の能力に関しても、明確に低下していくのは80歳以降という結果が出ています。
事実、世界を見渡してみると、70代、80代になっても輝き、すばらしい業績を残し続ける人も多数存在します。
僕自身が「この人はすごい!」と思ったシニア世代の一人が、英国ケンブリッジ大学への留学時代に出会った恩師であるホラス・バーロー教授です。
1921年生まれのバーロー教授はチャールズ・ダーウィンのひ孫で、世界的な陶磁器メーカーのウェッジウッド家とも縁がある方です。教授が所属していたトリニティ・カレッジは800年以上の歴史を持ち、アイザック・ニュートンや哲学者のバートランド・ラッセル、ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインなどの偉人が輩出した名門としても知られています。バーロー教授は2020年に亡くなりましたが、晩年まで精力的に研究を続け、年齢とともにその思考が進化していることを常日頃から僕も実感させられていました。
年を重ねるにつれて多くの経験を積み、心身ともに成熟し、豊かで成熟した人生を送る。そんなバーロー教授の人生には、僕自身も憧れてしまいます。
「年を取ったから自分はもう活躍できない」「若い人に道を譲らなければならない」などと思い込む必要はありません。むしろ、年を重ねてから発揮できる脳の力を、存分に発揮して、これまでは体験できなかったような新たな一歩を踏み出してほしいと思います。
文/茂木健一郎













