逃げ回って、時効数日前に逮捕された福田和子の視線
福田和子さんの物語を映画にしたいと思ったのは、あの逃げる夢を見てから何年か経ってからのことです。彼女に関する本を何冊か読んで、イメージがものすごく浮かんできて、これを映画にしたら面白いなと思ったのがきっかけです。
1982年に起きた松山ホステス殺害事件の容疑者で、全国に指名手配されながら、何度も整形手術をして顔を変えて15年間逃げ回り、当時の法律で時効になる数日前に逮捕された人物です。福田和子の事件は、当時は大きく報道されました。そのほとんどが、極悪人扱いでした。
でも、彼女の自伝をはじめ、いろいろな本を読んで感じたのは、本当に彼女は極悪人なのかな、という疑問でした。そして、彼女の視線から見た映画を作るというイメージを持ちました。
たしかに、生まれや育った環境は、表社会とは言えないものだったところもありますが、殺人事件を起こすまでは、普通に生きていた人です。
世間は彼女を、極悪人扱いしていましたが、逃げている間も、彼女は誰に悪意を持っていたわけでもありません。ただ、普通に生活していただけなんじゃないか。悪意があったのは、福田さんじゃなくて、むしろ福田さんを追い詰めた「世間」の人だったんじゃないかと。そういうことも含めて描くことができればいいのかな、と思いました。
これまで、短編映画を監督として作りましたが、長編映画の監督をするのは、初めてです。
15年くらい前からでしょうか。演じるのと同時に、作る方に興味を持つようになってきました。私はまあ、俳優としても、それほど何でもできるというタイプの俳優でもないので、もっとこういうものを表現したいと思ったときには、舞台を制作してきました。
その後、短編映画も作りました。舞台の頃は、脚本家に脚本を頼んで、演出家も選んでお願いしたりしていたのですが、だんだん、脚本を自分で書いてみたくなってきまして、短編映画のときには、台本も自分で書いて、演出も自分でやるようになってきました。
その流れで今回は、初めて長編映画を、脚本も監督も、自分でやろうということになりました。
これからどういう風になっていくのか、自分でもわからないですけれど、やっぱり、自分で納得のいくものを作りたいと、そちらの気持ちの方が強くなりました。
こういうのって、あまり考えていくと、無理じゃないですか。考え過ぎちゃうと、まあちょっと辞めておこうと、やらない方に傾いてしまいます。やりたいと思ったことができたら、やっちゃえばいい、と思います。
そう考えるのは、姿が見えないお化けを怖がって、そして逃げ回るのをやめて、恐怖と直面した方がいいという、あのとき見た夢に通じるものがあるのかも知れませんね。
私の見た世界
監督・脚本・編集/石田えり 出演/石田えり 大島蓉子 佐野史郎 ほか 配給/トライアングルCプロジェクト (25/日本/69min)1982年(昭和57年)、松山ホステス殺人事件の犯人として指名手配された福田和子を基にした逃亡劇。顔や名前を変えるなどして警察の目を欺き、時効直前の約15年間にわたり逃走を続けたが、時効直前に逮捕される。その15年間、彼女は何を見て、何を選択したのか……。何が彼女を追い詰め、どのようにして彼女自身がその道を選んだのか……。7/26~シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
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構成/髙田 功