「逃げるのはやめて、全部出しちゃおう」
あるときから、コソコソ逃げ回るのが、本当に嫌になりました。人の視線を気にして逃げ回るのはもうやめよう、と。開き直って全部出しちゃおうと決心しました。すごい芸術作として、ヌード写真集の決定版を出してやろうと心に決めました。
どうせやるなら、ヌードを撮らせたら世界一と言われていたヘルムート・ニュートンに撮ってもらおう、と思いました。
その頃、いろいろな出版社からヌード写真集をやらないかという話が来ていたんですけれど、「ヘルムート・ニュートンの写真集でなければ、やりません」と、条件を出していました。
そうしたら、本当に実現することになったんです。自分の思いが、地球の裏側まで届いて、実現に結びついたことに、感動しました。実際に「どうだ!」っていう作品になったと思います。
とてもよく覚えているのは、契約書にサインした日がお互いの誕生日だったことです。ヘルムート・ニュートンの誕生日である10月31日の日付で彼のサインが入った契約書が送られてきて、その10日後、私の誕生日の11月9日の日付で、私が契約書にサインをしました。
あの写真集が出てからは、世間の目が変わりました。たぶん、それ以上に、私自身の心が変わったのかもしれません。もう逃げなくていいんだと、完全に気持ちが吹っ切れたんです。
怖い夢をめぐる不思議な体験
今から10年ほど前のことだったと思いますが、とても怖い夢を見ました。夢のなかで私は、お化けに追いかけられて、すごく怖くて、走って逃げるんです。どんどん逃げるんですけれど、後ろからどんどん追いかけてくるんです。
怖くて、怖くて、もうこれ以上逃げられない、もう無理と思って、ものすごく勇気を振り絞って、止まって振り返りました。そうしたら、そのお化けがびっくりして、消えたんです。
ああ、そうか。こうやって、逃げるとどんどん怖くなるんだな。そうじゃなくて、怖くても勇気を出して直面すればいいんだなって思ったんです。
それからしばらくして、詩人の谷川俊太郎さんが、テレビで、私が見た夢とまったく同じ夢の話をされていたんです。それはとっても、不思議な体験でした。
そのときは気づかなかったのですが、今から考えると、私が見たこの夢は、世間の目から逃げ回っていたときに、開き直って全部さらけ出して、最高の写真集を出そうと思った、あのときの体験と共鳴するものがありますね。
最近、セクハラやパワハラ、性的虐待、暴行などの事件が、大きく報道されています。フジテレビやジャニーズのことは、言わば組織的な犯罪で、私が以前、ディレクターにされたひどい行為とは、また全然違う問題だとは思います。
ただ、私がデビューして間もない頃とは違って、今の若い俳優やタレントの人たちは、みんなしっかりしていて、勇気を出して声を上げることも多くなってきていると思います。
数年前には、ハリウッドを中心に、#MeToo運動などが起きて、世界的に大きな広がりを見せました。女性たち、少年少女たちも、勇気を出して声を上げることが増えてきています。
それでも、芸能界やメディアに登場する人だけではなく、普通に生活している人々も含めて、性的な被害を受けて、心に傷を受けて苦しんでいるケースは今でもたくさんあると思います。
そして、事件が明るみに出ることはなく、弱い立場の人たちがが泣き寝入りして、被害者だけが苦しんでいるケースが山ほどあるはずです。