「彼のような青年が、横綱になってくれたら」
――大の里を高校時代からご存じだったそうですね。
小林信也(以下、同)はじめて会ったのは、2017年春。大の里は、高校2年生になったばかりでした。今年5月、大の里が横綱に昇進すると多くの人に「8年前からよく目をつけていましたね」と言われましたが、「彼のような青年が、横綱になってくれたらいいな」とすぐに感じたんです。
2010年代、八百長や暴力などの大相撲の問題が盛んに取り沙汰されていたでしょう。また外国人力士が活躍してくれた一方、日本人力士が目立たなくなっていた。
子どもたちがお相撲さんに対して、憧れを抱きにくくなった時期でもありました。こういう青年が引っ張ってくれたら、きっと相撲界も変わるはず……。そんな期待を抱いたんです。
――具体的にはどんなところに魅力を感じたのですか?
大の里は、すでに190㎝を超えていました。一目見て、こんなに上背があって均整の取れた体格をした力士は、当時の関取衆を思い浮かべてもそうはいませんでした。
高校時代は圧倒的に強い存在ではありませんでしたが、優秀な成績を収めていました。素質は誰もが認めていました。
相撲の才能に加えて、私が惹かれたのは、素朴で素直な彼のキャラクターです。
ここ十年、二十年、スポーツ界はやはり商業主義が当たり前になって、仮に野球なら中学生のころから、「強豪高校に入って甲子園に出て、将来はプロに入って1億円……」など、野球が純粋に好きという気持ちよりも、プロに入って有名になり、お金を稼ぐことが目的になっている。
もちろんそれもひとつの生き方でしょうが、その競技を背負って、競技自体を発展させる存在というのは、そういった打算と無縁なイメージな人が多いと思います。
その点、大の里は、一度会っただけなのに相撲に対して誠実な姿勢と素直で明るい人柄が自然に伝わってきて、応援していきたいと思ったんです。
初対面のとき「将来、大相撲に入りたいんです」と話す大の里に、私は「お相撲さんは十両でも月給100万円以上ももらえるらしいね」と言ったんです。
大の里は「本当ですか!」と驚いた顔をしていました。そんな大の里に、彼を指導する新潟県の海洋高校の総監督が「おい、月に100万だと1年でいくらだ?」と聞きました。
すると大の里は「えっ?」と考えた後、「300万ですか?」とマジメな顔で答えました。
本気なのか、冗談なのかはわかりませんが、徐々に人柄や性格が分かってくると、大の里は頭の回転が速くて、相手が何を求めていて、どうすれば、喜んでくれるかを考えて振る舞っていることを知りました。