「なめられてたまるか」発言への強烈な違和感の正体
すでに自動車分野では4月3日から25%の関税が課されているが、5月の貿易統計の数字は衝撃的だった。対アメリカの自動車1台あたりの輸出単価は363万円で、前年同月比21.7%の減少。関税分を価格転嫁することができず、企業が負担している実態が浮かび上がってきた。1台あたりおよそ100万円をコストとして吸収している可能性が高い。
自動車の関税とほぼ同じタイミングで、全品目に対して10%の相互関税も課しているが、これも企業が吸収しているケースが多いようだ。5月の貿易統計では、対アメリカのゴム製品1トンあたりの単価が11.5%、自動車の部品が8.1%、原動機が5.3%それぞれ減少している。
今年3月にトランプ大統領が突然、「関税を課す」と発表した際、専門家や識者から急速なインフレによる景気悪化を懸念する声が噴出した。企業は関税分を価格に転嫁するとの見方が大半だったのだ。
しかし、5月のアメリカの消費者物価指数の上昇率は前年同月比2.4%で、前月比0.1ポイントの上昇に留まった。そして、変動が大きいエネルギーと食料品を除いたコア指数は2.8%の上昇であり、前月と同じ数字だった。市場予想を下回る伸びだったのだ。トランプ政権が強気に出ている背景がここにある。
しかも、5月のアメリカの関税収入は220億ドルであり、2024年のおよそ3倍に膨らんだ。インフレや景気の悪化を伴うことなく、税収を大幅に伸ばすことができたわけだ。
石破首相は「なめられてたまるか」と発言し、強気の姿勢で交渉に挑むかのような覚悟を見せた。ところが、7月10日のBSフジ「プライムニュース」で、アメリカ依存から自立するよう努力しなければならないということだとコメントし、解釈の違いを強調した。発言が切り取られて世界中に拡散したことへの焦りだろう。
しかし、この言葉には違和感がある。ただでさえ企業はコスト負担をしているにもかかわらず、さらなる自助努力で何とかこの難局を乗り切ってくださいと、突き放しているようにさえ聞こえるからだ。ましてや有望な市場だった中国の景気停滞が鮮明になる中、新市場を開拓することなど簡単ではない。
政府の交渉は当てにならず、25%の高関税が着実に歩みを進めている。これをコストとして吸収するのであれば、固定費の削減が視野に入る。人件費のカットだ。