テレビ番組のCM中にアナウンサーを恫喝?
今回の選挙では、与党である自民党の大幅な議席減が予想される一方で、野党勢力の勢力図は刻一刻と変化している。ここにきて一気に注目度を高めている政党や候補者もいる。
その背景にあるのが、SNSの爆発的な影響力だ。演説動画や政策まとめ、さらには「この人は実はこんな発言をしていた」といった“告発系投稿”までが連日投稿され、X上では膨大な「いいね」やリポストで拡散されている。
たとえば最近話題となったのが、石破茂首相がテレビ番組『news every.』(日本テレビ系)のCM中に「舐めない方がいいですよ。今50代の人達ね」と発言している切り抜き動画。
この映像が「アナウンサーを恫喝する石破茂」というコメントとともに拡散されると、11万以上の「いいね」、3000万を超えるインプレッションを記録し、「パワハラ総理だ!」と批判が続出した。
だが、動画のフルバージョンを見ると、これは社会保障制度に関する発言であり、団塊ジュニア世代(現在の50代)が高齢化したときの財政的負担について、「甘く見てはいけない」という文脈で放った言葉であることが判明したのだ。
ネットの反響を受けて、日テレ側も同番組で「誤情報である」との声明を出すことになり、これは大きな物議を醸すことになった。
「石破首相を好きじゃないけれど今回は同情する」
「石破さんが恫喝してた動画、あれフェイクだったの!? あんなことされたらどんな候補者も落とせると思う。怖い」
今回のケースは「切り抜き」による誤解だが、今や言葉だけでなく音声や動画そのものがAIで捏造されてしまうことも珍しくない。誰もが簡単に巧妙な動画や画像を制作できるようになった今、SNS上には過激な言葉や敵対候補のネガキャンが溢れ、それらが「ソース不明」のまま拡散されている。
なぜ私たちは、こんなにもフェイクに引っかかってしまうのだろうか。
学習院大学非常勤講師で情報社会学を専門とする塚越健司氏に、その背景を聞いた。
「多くのフェイク情報は、強い感情を引き出すように設計されており、そうした投稿に接して感情が動くと、普段はぼんやりと感じている程度の“怒り”や“不安”の感覚が強く刺激されます。
こうして感情が強化されて信念が補強されると、自分の信念や感情に合致した情報を信じやすくなり、逆の情報は目に入りづらかったり、無視する心理が働きやすくなります」(塚越氏、以下同)
これは「確証バイアス」と呼ばれるもので、本人が冷静だと思っていても、実際には感情の影響によって、本来なら理性的に判断できるはずのことが難しくなるという。その結果、他者との議論が噛み合わなくなってしまうことも少なくない。