111年間で一番楽しかった年代は?
そんな戦前、戦中と激動の時代を乗り越え、終戦後は地元・静岡に戻り、海老芋や長ネギ、メロンを作るなど85歳ごろまで農業を営んだ。現在は子ども4人、孫10人、ひ孫10人、玄孫は人数不明だという。
111年間の人生を現段階で振り返ってみて、どの年代が一番楽しかったか聞いてみると、
「50代が一番よかったかな。戦後の王・長嶋がいた時代が一番面白かった。俺は巨人ファンだし、王はよくホームランも打って国民栄誉賞1号をもらったりもしてな。相撲では大鵬もいて、あのときは昔のいろんな衆がいたからな」
と懐かしそうに振り返った。清隆さんの50代のときはちょうど日本が高度経済成長期へと差し掛かった昭和30~40年代。静岡で畑仕事をしつつ、子育てもひと段落し、テレビ越しに野球観戦や相撲中継を楽しんでいた時期だったという。
では、大正、昭和、平成、令和-この4つの時代を生きて、一番印象的だった時代を聞いてみたところ、
「一番いいっていうのは分からんけども、昭和の時代は64年と長かったからな~」
と思いを馳せていた。
111年間の中で一番うれしかったことを聞くと、
「うれしいことは111年間の中でたくさん経験したから、一番を選ぶのは難しいな。いろいろな人に出会えて、子や孫やひ孫の顔もたくさん見れたしな、どれも大切な思い出だ」
最後に現代を生きる若者に何か言いたいことはありますか、と尋ねてみたところ、
「別に言いたいことはないな~。ああだこうだ言ったって、その人その人の人生だからな。俺もこんな年まで生きるなんて思いもよらなかったで。日本で一番長く生きるなんてな。
なってみると、なんだかな~って感じだけどな。いつまで生きるかは、誰だってそのときがこないと分からないからな」
そう力強く語るひとつひとつの言葉の中に111年間を生き抜いた人の優しさや穏やかさがにじんでいた。この先も清隆さんのまだまだ続く物語があることを信じたい。
取材・文/木下未希