減税分は本当に価格に転嫁されるのか? 

日本経済新聞社と日本経済研究センターは、経済学者を対象とした第5回の「エコノミクスパネル」調査で、消費税減税の是非について尋ねている。「一時的な消費税減税を行うのは適切である」との質問の回答で、「そう思わない」は57%、「全くそう思わない」は28%にのぼる。実に85%が否定的なのだ。

一度引き下げを行なうと元にもどすことが困難との理由もあるが、物価高対策としての減税効果は限定的で、税収の損失に見合わないとの回答もあった。

減税効果が限定的であることは、ヨーロッパでの複数の先行事例がある。イギリスでは2008年から2009年までの13か月間にわたって付加価値税を2.5ポイント引き下げた。リーマンショックによる急速な景気悪化の支援策だ。

この減税策によって小売売上高は1%、総支出は0.4%増加している。国民の消費活動が活発になったためだ。しかし、減税策が終了した2010年1月には小売売上が大幅に低下した。結局のところ、需要を先食いしたに過ぎなかったわけだ。

国民民主党は景気が低迷するスタグフレーションに陥らないために、消費税の減税を行なうという。つまり、消費税負担を一時的に軽減、消費喚起によって景気を回復させ、手取りを増やそうというものだ。しかし、イギリスの例では景気の好循環とはならなかった。

また、消費税の引き下げ分が、そのまま消費者の“取り分”になるだろうという誤った幻想もある。

フランスでもリーマンショックによる外食需要減退に苦慮し、レストランの付加価値税引き下げを行なった過去がある。19.6%から5.5%にするという大胆な内容である。しかし、引き下げ分の価格転嫁率はわずか5.6%にとどまった。

そして、再び税率を引き上げると、上昇分とほぼ同等の金額が上乗せされる結果となった。つまり、減税の取り分は事業者のほうが大きかったわけだ。

立憲民主党は消費税を0%にすることで、国民1人当たり年間4万円の負担軽減になるというが、その主張には危うさも伴う。商品やサービスの値付けは、消費者にとってはいわばブラックボックスであり、事業者側に有利に働きやすい。フランスのレストランがそれをよく表している

リーマンショック後に税引き下げが行なわれたパリのレストラン
リーマンショック後に税引き下げが行なわれたパリのレストラン

消費税の減税で国民の負担は軽減されるという単純な主張は衆目を集めやすい。これまでも、「円安になれば景気は回復する」「デフレからインフレになれば賃金は上昇する」などを論拠に、金融緩和や財政出動を進めてきた。はたして、国民の生活は豊かになっただろうか。

実際は賃金上昇が物価高に追いつかず、多くの人が苦しむ結果となったのだ。