「母が出産しました。僕の子どもです」なぜ息子との性交を回避できなかったのか…背景にある、妻は息子を産む道具とみなしていた医師の夫の存在
犯罪加害者家族の支援を手掛ける特定非営利活動法人「World Open Hear」の理事長・阿部恭子さん。彼女が相談を受けていた家族の息子から驚きの電話を受ける。母が彼の子を妊娠したというのだ。そしてその事実を父も当たり前のように受け入れているという。
書籍『近親性交 語られざる家族の闇』より一部を抜粋・再構成し、家族の実像を明らかにする。
近親性交 語られざる家族の闇 #2
息子との性交は回避できたか
息子との性交は避けられなかったのだろうか。私は率直に恵理子に聞いてみた。
「私もずっとそのことを考えてきました。せめてもうひとり子どもがいたとしたら、こんなことにはならなかったでしょう」
恵理子は夫に対抗できる力はなく、もっと子どもが欲しいと夫に言い続けることはできなかった。一方、息子は思い通りになることから、性教育と正当化しながら性的な関係を進め、身体的・精神的な寂しさを埋めていた。
恵理子のように、いつまでも子離れができない母親は、実際少なくないのかもしれない。
しかし、四六時中息子のことだけを考え、行動することができるのは、経済的に余裕がある家庭に限られる。
子どもの教育費を稼ぐのに、必死でいくつもパートを掛け持ちしている母親には無理である。物質的な豊かさは、皮肉にも埋められない孤独を生んでしまった。
写真はすべてイメージです 写真/Shutterstock
2025/6/2
1,100円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4098254934
それは愛なのか暴力か。家族神話に切り込む
2008年、筆者は日本初となる加害者家族の支援団体を立ち上げた。24時間電話相談を受け付け、転居の相談や裁判への同行など、彼らに寄り添う活動を続けてきた筆者がこれまでに受けた相談は3000件以上に及ぶ。
対話を重ね、心を開いた加害者家族のなかには、ぽつりぽつりと「家族間性交」の経験を明かす人がいた。それも1人2人ではない。筆者はその事実にショックを受けた。
「私は父が好きだったんです。好きな人と愛し合うことがそんなにいけないことなのでしょうか」(第一章「父という権力」より)
「阿部先生、どうか驚かないで聞いて下さい……。母が出産しました。僕の子供です……」(第二章「母という暴力」より)
「この子は愛し合ってできた子なんで、誰に何を言われようと、この子のことだけは守り通したいと思っています」(第三章「長男という呪い」より)
これほどの経験をしながら、なぜ当事者たちは頑なに沈黙を貫いてきたのか。筆者は、告発を封じてきたのは「性のタブー」や「加害者家族への差別」など、日本社会にはびこるさまざまな偏見ではないかと考えた。
声なき声をすくい上げ、「家族」の罪と罰についてつまびらかにする。