すぐに下山すれば死ぬことはないが…

そして、もう一つ登山で気をつけてほしいのが「高山病」。

高山病は酸素濃度の低下によって生じる障害で、登山などで高地に行くことで起こる「急性高山病」と、高地で生活している人に起こる「慢性高山病」の二つが知られています。

高山病はその重症度によって、「山酔い」「肺水腫」「脳浮腫」の三つに分類されます。

「山酔い」は頭痛、倦怠感、食欲低下、吐き気や嘔吐などの症状がありますが、この時点で山を下りて安静にしていればほぼ問題ありません。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
写真はイメージです(写真/Shutterstock)

ところが、強い息切れを起こす「肺水腫」、歩行が困難になるほどの「脳浮腫」に至った場合は、緊急対応を行なわないと命を落とす場合があります。

持病のある高齢者であれば、なおさら死の危険があるので、すぐに高度の低いところに下り、速やかに医療機関で適切な治療を施さなければなりません。

ちなみに高山病は、何もエベレストなど世界的に高い山だけで起こるものではありません。標高1500メートルを超えると、どこでも発生する可能性があるのです。

ここまでの高さになると、酸素の濃度は85%程度まで低下します。すると、通常であれば96〜99%ある血中の酸素飽和度が、92%以下にまで低下してしまいます。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
写真はイメージです(写真/Shutterstock)
すべての画像を見る

これは、高山病の症状が出る可能性が十分にある数値なうえ、高齢者であれば、脳梗塞などの脳血管疾患、心筋梗塞などの虚血性心疾患を発症する危険性もあるのです。

国土地理院によると、日本国内に標高1500メートルを超える山は500座以上もあり、比較的気軽に登れる山もあるとのこと。景色を楽しみ、達成感を得ることなどを優先しすぎて、十分な計画や準備を怠ったまま、安易な気持ちで登山することのないように心がけてください。

※このような危険を避けるには……
・しっかりと下調べを行ない、余裕のある計画を立てる。
・登山速度はゆっくりと、グループの場合は最も遅い人のペースに合わせる。
・症状が出たら下山し、重症と思われたら速やかに医療機関を受診する。

文/高木徹也

『こんなことで、死にたくなかった 法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」』(三笠書房)
高木 徹也
『こんなことで、死にたくなかった 法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」』(三笠書房)
2025/3/27
1,760円(税込)
248ページ
ISBN: 978-4837940319

◎発売2週間でたちまち重版!
◎高齢者の「あっ、死ぬかも」から命を守る本
◎「死因のプロ」が49の事故例を徹底解説!

大人気ドラマ『ガリレオ』シリーズを監修し、
5000体以上を検死・解剖してきた法医学者が、
高齢者を襲う「まさか」の死因を解き明かす!


親、祖父母、パートナー、友人、そして自分。
身近の大切な人を、突然失わないために――

□トイレできばって死ぬ
□飛行機に乗って死ぬ
□くしゃみで死ぬ
□押入れに頭をぶつけて死ぬ
□ジョギングで死ぬ
□薬の用法・用量を間違えて死ぬ

死の危険は、知っていれば避けられる。
本書では「なぜ死に至ってしまうのか」「そのような危険を回避する方法」も解説しています。 

amazon