白クマ実験の衝撃
1987年、ダニエル・ウェグナー博士は画期的な実験を行いました。のちに「白クマ実験」として世界中で知られることになる研究です。
実験は、2つのグループに分けられた被験者が、それぞれ個室で異なる指示を受けます。
一方のグループには「これから5分間、白いクマのことを絶対に考えないでください。もし頭に白クマが浮かんでしまったら、ベルを鳴らし、どんな考えが浮かんだのか声に出してください」と告げられました。
もう一方のグループには「これから5分間、白いクマのことを自由に考えてください。頭に白クマが浮かんだときはベルを鳴らし、考えを報告してください」と指示が与えられました。
白クマのことを「考えるな」と言われたグループと、「考えて」と言われたグループ。
結果は衝撃的でした。
「考えないでください」と指示されたグループの被験者たちは、平均して1分間に約7回も白クマについて思考したと報告したのです。
これは「自由に考えて良い」と言われたグループの約2倍。しかも、実験後のインタビューでは、「考えないように必死になればなるほど、白クマのイメージが鮮明に浮かんできた」という報告が相次ぎました。
ウェグナー博士はこの現象を「リバウンド効果」または「逆説的思考抑制」(Paradoxical effects)と名付け、論文を発表。この発見は、人の思考と感情に関する研究に大きな影響を与えることになります。
つまり、職場での人間関係や家庭内の問題でストレスを感じているときこそ、「気にしないようにしよう」という方法は裏目に出やすいのです。
さらにfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を使った研究でも、「考えないようにする」という意識こそが、脳の特定の部位を逆に活性化させることも明らかになってきました。