GAFAM興隆のカギは「利潤からレントへ」
――この本で強く印象に残ったのは、どのあたりでしょうか。
内田 「利潤」から「レント(地代・使用料)」へ、という視点ですね。こういう言葉遣いをした人はおそらくバルファキスが初めてでしょう。
たとえば、イーロン・マスクとかジェフ・ベゾスの話が出てくる箇所がありますよね。彼らからすると、利潤なんてどうでもいい。重要なのは、市場を完全に支配することですね。ピーター・ティールも著書『ゼロ・トゥ・ワン』で、「一番大事なのは独占だ」とはっきり言っています。
要するに、質の高い製品を作って、他のメーカーとの差別化を図り、より安価で良質な商品を提供した者が市場を制する……という「市場競争」なんて考え方はもう古い。とにかく市場を独占する。どんな手を使ってでも独占してしまえば、あとは自動的に小銭が毎日じゃらじゃらと世界中から集まってきて、積もり積もって何兆円にもなる。そういうモデルなんです。
この独占の確立が、テック・ジャイアントたちの成功モデルの核心にある。バルファキスはこのシフトを「利潤からレントへ」という言葉で非常にうまく捉えていると思います。
たとえば、アップルやグーグルがどうやって市場を独占していったかを語る場面があります。そこで登場する「クラウド領主」「クラウド封臣」「クラウド農奴」「クラウド・レント」といった言葉は見事な比喩ですよね。少しだけ引用します。
クラウド領主は世界中にその封土を広げ、封臣資本家やクラウド農奴から莫大な金額のクラウド・レントをせしめるようになった。矛盾するようだが、古きよき利潤に頼る資本家の数は増えたものの、利潤率は下がり、力は弱まった。(中略)
規模の大小や権力の強弱にかかわらず、封臣資本家は、アマゾンやイーベイやアリババなどのEコマースサイトで製品を販売しても、利潤のそれなりに大きな部分を自分が頼るクラウド領主にピンハネされる。(『テクノ封建制』p.166)
アメリカ中西部の工場主から最新の詩集を売ろうともがく詩人まで、ロンドンのウーバー・ドライバーからインドネシアの露天商まで、あらゆる人がクラウド封土に頼らなければ顧客とつながることができなくなった。(中略)
かつて封建領主が地代を徴収するために暴漢を雇って封臣の膝を折ったり、血を流させたりした時代は終わった。クラウド領主は地上げ屋を雇わなくても没収や立ち退きを強制できる。クラウド封臣のサイトへつながるリンクを外すだけで、顧客にアクセスできなくなるからだ。グーグルの検索エンジンやEコマースやソーシャルメディアのサイトからリンクのひとつやふたつを削除すれば、オンラインの世界からまとめて消滅させることもできる。洗練されたテクノロジーによる恐怖政治が、テクノ封建制の基盤にはある。(『テクノ封建制』p.168)
ピーター・ティールの言う「独占せよ」がテクノ封建制の基盤をなしている。誰も思いつかなかったサービスをネット上でいきなり展開して、他の追随を許さずに市場を完全に支配する。そのあとで、世界中の人間から使用料という名目で小銭を徴収していく。この構図が、「テクノ封建制」という言葉で見事に活写されています。
それから、本の締めの言葉がいいんです。オールド・マルキシストの胸を打つんです。「万国のクラウド農奴よ、クラウド・プロレタリアートよ、クラウド封臣よ、団結せよ!」と締めくくる。
やっぱり、こういう話は最後に「革命だ!」とならないと、しっくりきません(笑)。そういう点でも「間然するところがない」という言葉がぴったりくるような本ですね。