行政処分を受けた「悪徳施設」が復活するカラクリ

「不正が発覚して行政処分を受けた施設や、問題が噴出して行政に目を付けられている施設は、計画倒産をしたり、代表者と法人名を変え、平然と事業を再開させるというのが常套手段になっています」

そう話すのは、大阪市の介護事業所の経営者だ。

法人名や代表者を変更して事業を再開することは、形式的には可能であるが、容易ではない。介護事業者が行政処分を受けた場合、単に法人名や代表者を変更するだけでは過去の処分を回避することはできないような運用をされていることが多いからだ。

介護事業者は、都道府県や市町村などから介護保険法に基づいて介護事業者としての指定を受けるために申請を行う必要がある。指定業者にならなければ、介護報酬を受け取れない。従って、指定業者になるため、常勤の職員が何名以上おり、どんな設備が整えられているかなど、設定された細かい基準をクリアしなければならないという仕組みになっている。

高齢者虐待の相談・通報件数と虐待判断件数は増え続けている(厚労省HPより)
高齢者虐待の相談・通報件数と虐待判断件数は増え続けている(厚労省HPより)
すべての画像を見る

もしなんらかの問題を起こすと、ペナルティーとして指定が取り消されることもあり、そうなると介護報酬を受け取れず、事実上、事業が成り立たなくなる。過去に行政処分を受けた法人が、法人名や代表者を変更しただけでは、本来は行政側から厳しくチェックされ、指定を受けられないはずだ。

介護保険法第115条にも、事業者指定の要件や取り消しに関する規定が明記されている。これに基づき、過去に処分を受けた法人や代表者が再指定を受けるには、その経営体制や運営の適正性が厳密に審査されるのである。さらに、厚労省の指導指針では、事業者の信用性や利用者への適正なサービス提供が重要視されており、過去の問題を引きずる事業者には厳しい監視が行われることになっている。

ところが、実態としては、制度の隙間を突いた手法で事業を再開するケースもあるのだ。

先の大阪市の介護事業所経営者が続ける。

「例えば、処分を受けた代表者が、配偶者や友人を新たな代表者に据え、表向きには全く別の法人として事業を開始するケースをよく聞きます。表向きは、問題を起こした人物が経営に関わっていないということになっていますが、実質的な経営者は同じ。このような手法は、行政の監視の目をすり抜け、再び事業を始める手段としてよく使われている手口です」

実際に私が過去に取材した問題のある事業所は、もともと株式会社だったが新たにNPO法人を立ち上げ、代表者を問題があった社長の知人にしている。表向きは全くの別法人であるが、実質的経営者は同じだった。ちなみに、この問題があった会社社長は、従業員に「会社にもしものことがあったら、別法人をつくるしかないな」という趣旨の話をしており、その音声データも私の手元に残っている。

こうした手口を行政も知らないはずはない。前出の経営者が言う。

「もちろん市も知っています。ただ、書類の上では全くの別法人になっていることもあり、どうすることもできないと市の担当者が言っていました」

そうした情報を知らされることもなく、名前を変えた元悪徳施設に入居してくる利用者もいるのだ。

文/甚野博則

『介護大崩壊』(宝島社新書)
甚野博則
『介護大崩壊』(宝島社新書)
2025/4/25
1,100 円(税込)
264ページ
ISBN: 978-4299062215

「団塊の世代」必読! 知っておかないと「地獄」を見る、介護保険と介護現場のリアル。

絶望的な人手不足、高齢化する介護職員、虐待を放置する悪徳施設、介護保険と介護ビジネスを食い物にする輩――「団塊の世代」が全員75歳以上になる2025年は、「介護崩壊元年」とされるが、現場ではすでに崩壊は始まっている。介護する側も、される側も「地獄」状態なのが今の日本の介護システムである。大手メディアが報じないタブーな現場を徹底レポートする。

amazon