虐待が放置され続けている!

施設内で起こる虐待についても、こんな例があった。

九州地方のある施設で、長年にわたって虐待が続いていると明かすのは、この施設で働く林田雅之さん(仮名)だ。

この施設では、平日の午前中に1時間だけ介護が行われるものの、それ以外の時間はほとんど何の支援も行われていないという。例えば、入浴時間中も手が空いている職員が利用者に積極的に関わることはほとんどなく、建物は施錠され、利用者は外に出ることができない状況だと林田さんは語った。

さらに、この施設ではこんな状況が日常的にあったと林田さんは明かす。「浴槽から利用者さんを出す際に、声かけに応じないと髪を引っ張って移動させる場面や、シャワーで冷水を浴びせる職員がいたこともありました」

画像はイメージです(写真/Shutterstock)
画像はイメージです(写真/Shutterstock)

また、朝起きてこない利用者に対して大声で叱責する場面も見たことがあると打ち明けた。施設内部では尿臭が漂う居室が放置されたままだといい、利用者が1〜2センチも大きい靴を履いていても放置していたという。転倒の危険があっても知らん顔をしていたのだ。

林田さんは2020年に、他の事業所からこの施設に移動してきたが、当時から虐待が日常化していたという。

「施設内で行われている虐待は誰も止めようとせず、上層部に報告しても取りあってもらえなかった」

他に、どのような虐待が行われてきたのかと訊ねると、利用者が職員の指示に従わない場合、頭部や腹部を殴ったり、食事介助の際、声かけに応じない利用者に対して、頭部や体を叩き、食事を破棄したこともあったと明かした。就寝時におむつを触る利用者に対しては、防水シーツを巻いて眠らせることもある。さらに起床が遅い利用者に対して、こう叱責したこともあるそうだ。

「いつになったら起きてくるのか? お前だけだぞ、まだ寝ているのは」

また、林田さんが直接見たわけではないが、過去には利用者を羽交い絞めにして倒すような行為もあったと別の職員から聞いたことがあるという。

このような虐待が行われている事実は、林田さんによって施設長にも報告された。だが、具体的な改善策は取られなかった。そこで、匿名で市役所に相談。それから半年以上経った後、ようやく市による調査が行われた。

「調査といっても文書での報告にとどまり、聞き取り調査や立ち入り調査は行われませんでした」

林田さんによると、現在は目立った虐待は減ったものの、この施設における虐待問題はまだ解決されていないという。

このケースでは、林田さんによる告発で虐待が表面化している。ただ、施設内で入居者が被害に遭っても、その声が施設側に届かないというケースも多々あるのだ。多くの高齢者は、病気や高齢のため、不適切な対応をされても仕返しを恐れて声を上げることができない状況にある。

そのため、施設での問題が家族から指摘されても改善されることがなく、問題が継続してしまうケースもある。施設内で何が起こっているのかが外部に知らされないままの現実が、入居者や家族にとって大きなストレスとなっているのだ。

さらに先に記した例のように、市の高齢者支援課や保健所に苦情を伝えた場合でも、どのような対応をしたのかが家族や告発者に報告されることはあまりない。行政は、こうした運用を続けていてよいのだろうか。