日韓人材争奪戦で優位に立つ韓国
ソウル近郊の華城市。金属加工の「HTM」ではベトナムとインドネシアから来た計13人が働く。うち1人がファン・ティン・フェンさん(39)。工場長を務めるベトナム出身の熟練技能人材だ。
08年に韓国に来た。同社では翌年から一時帰国をはさんでもう15年働いている。「来年には永住許可を申請しようと思っている」と話す。
最高経営責任者の閔必泓さん(48)は言う。「雇用許可制がないと中小企業は生きていけない。韓国では技能を持った人材も減っている。熟練労働者には永住権を提供するのは当然でしょう」期間限定の労働者としてではなく、永住を視野に入れた受け入れを増やすとなれば、「移民政策」へと踏み込むことを意味する。23年12月に韓東勲法相はこう述べている。
「移民政策を取り入れるかどうかを悩む段階は過ぎている。取り入れなければ、国家消滅の運命は避けられない」
日本と韓国は、いずれも外国人の働き手は東南アジアからの受け入れが多い。両国に働き手を送るミャンマーとネパールの人材会社の担当者は「海外での就労を希望する若者らの間では、韓国の人気が高まっている」と口をそろえる。
理由の一つが賃金だ。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの加藤真氏によると、23年の平均月給は日本の技能実習生が21.7万円、特定技能が23.5万円。それに対して、韓国は熟練度が低い労働者でも28.5万円だった。
韓国では24年の最低賃金が全国一律の9860ウォン(約1115円)で、最近の為替レートで比べれば日本で最も高い東京を上回るほどの水準だ。言葉の面でも、漢字とひらがな、カタカナが交じる日本語に比べ、韓国語はハングルだけで習得しやすいとの声が多い。
日韓のいずれも、外国人労働者の存在が不可欠な経済・社会になりつつある。
そのなかで、どちらが働き手に「選ばれる国」になるか。人材の争奪戦が激しくなりそうだ。
取材・文/朝日新聞取材班 写真/shutterstock