お笑いサークルの大学生はなぜ就職で有利なのか? 令和ロマン・高比良くるまのネタ作りとコンサルの「ケース面接」の共通点
就職先・転職先として近年人気を集めている「コンサル」。この現象は「ポータブルスキルを身につけろ」「仕事で成長」という言葉に取り囲まれているビジネスパーソンの状況を象徴しているが、そうした流れはエンターテインメントの世界にも波及している。
『東大生はなぜコンサルを目指すのか』より一部を抜粋・再構成してお届けする。
芸人も会社員も地道な「圧倒的努力」が求められる時代?
ルールに沿ってその強さを競う点で、賞レースの影響下にある現代のお笑い芸人はアスリートの姿に近づいている。だからこそスポーツメディアである「Number」もお笑いを取り上げる。
2022年12月には、サッカーのカタールワールドカップが開催されている時期にM−1グランプリについての特集を誌面で行っていた(表紙のコピーは「スポーツとしての4分間の競技漫才。」)。
第二章で取り上げたようにアスリートと「成長」は隣接しており、その場所と近いところにアスリート化しつつあるお笑い芸人の立ち位置がある。
目指すものがわかりやすければ、対策も立てやすい。一見すると会社員の世界よりも自由に見えるお笑いの世界でも、優秀なサラリーマンとしてのスキルが有効に活用できる時代である。
くるまについて特筆しておくべきなのが、このような分析のために実に地道なファクト集めを行っていることである。
先ほど紹介した「決勝前に2015年からのM−1を全部、見返したんですよ」にせよ、「例えば『運動会』のネタで『ソーラン節』という言葉が出るときは、この地域では運動会でソーラン節を踊っているのか?など、その地域の劇場スタッフに聞きます」(「令和ロマン・髙比良くるまは、なぜ漫才を分析するのか?」あしたメディア、2024年2月8日)にせよ、一見するとセンスで思いついているかのようなネタを披露するにあたって明らかに手間のかかることにリソースを割いている。
この勤勉さこそが、今の彼らの地位を形作っている(もっとも、執筆時点でくるまの活動自粛が発表されており、ここ数年で築いた彼らのポジションが今後どのようになるのかは不透明だが)。
文/レジー
2025/5/16
1,056 円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4087213652
【仕事と成長に追い立てられる人たちへ】
東大生の就職人気ランキング上位をいつのまにか独占するようになった「コンサル」。この状況の背景にある時代の流れとは?
「転職でキャリアアップ」「ポータブルスキルを身につけろ」そんな勇ましい言葉の裏側に見えてきたのは、「仕事で成長」を課せられて不安を募らせるビジネスパーソンたちの姿だった。
時代の空気を鋭く切り取った『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』の著者が、我々が本当に向き合うべき成長とは何なのかを鮮やかに描き出す。
【目次】
・はじめに
就活ランキングを埋めつくす「コンサル」/成長したがるビジネスパーソンの裏側 ほか
・第一章 成長に魅せられ、振り回される人たち
「成長教」で人生のバランスが崩れる/「会社に頼るな」という風潮を作るのは誰か/安定したい、だから成長したい ほか
・第二章 成長に囚われた時代のカラクリ
今改めて読む『若者はなぜ3年で辞めるのか?』/働かせるためのキャリア教育/「やりたいこと」と「サバイブ」の悪魔合体 ほか
・第三章 「成長」と「コンサル」 東大生はなぜコンサルを目指すのか?
やりたいこと地獄へのカウンターとして/「MECE」「結論から話せ」「3つあります」/コンサルをバカにして、コンサルから学ぼうとする ほか
・第四章 コンサルタントたちの本音
インタビュー1 Aさん(20代・新卒)「安定のために努力している」
インタビュー2 Bさん(20代・新卒)「モラトリアム期間で武器を身につけるために」
インタビュー3 Cさん(30代・中途)「フレキシブルさが全然違う」
・第五章 「成長」文脈で読み解くポップカルチャー
タワマン文学とコンサル/令和ロマンの分析と圧倒的努力/JTCから羽ばたいた宮脇咲良 ほか
・第六章 成長をめぐる不都合な真実
働き方改革が引き起こす「ゆるい職場」問題/イチロー発言と生存者バイアス/勤勉さは「出し抜く」ための武器か ほか
・第七章 成長に囚われずに、成長と生きる
戦うべき相手は「怠惰のウソ」/成長を目指してキャリア迷子にならないために/ジョブ・クラフティングで自己満足を ほか
・おわりに
「昭和のパロディが令和のコメディ」の時代を生きる