アイドルへの精神的依存

知れば知るほど好意は増し、理想に近い存在として認識するようになると、ファンは「この子は恋愛しない」と妄信するようになる。そんな中で交際の事実が判明すると、「思っていたのと違う!」という落胆が、「裏切られた」という怒りに変わってしまう。

「これは根本的には“精神的依存”から来ているとも言えます。特に自己肯定感が低く、アイドルに精神的な支えを求める人たちにとっては、自己承認欲求を満たしてくれる存在として、アイドルが機能している場合もあるのです」(同)

かつてアイドルは“雲の上の存在”であり、一方通行の関係しかなかった。しかし現在では、ライブや特典会、SNSなどを通じてファンの側も“認知(アイドルに顔と名前を覚えてもらうこと)”されることが増えた。推しから「〇〇さん、いつもありがとう」と名前を呼ばれれば、その喜びはひとしお。これが自己肯定感を満たす行為になっているのだ。

「しかし、アイドルに承認を求める傾向が強く、感情がエスカレートしやすい人ほど、『裏切られた!』と感じた瞬間、それが怒りへと変わり、誹謗中傷につながってしまうケースが多いのです」(同)

今年に入り頻発するアイドルの写真流出事件に対する反応では、「またヲタがめちゃくちゃなことを言っている」とSNSなどで揶揄されがちだが、これは一部の過激なファンだけの問題ではない。

「アイドル人口が増加し、競争が激化する昨今は、アイドルの側にとっても、ファンの自己承認欲求を満たすことが、ファンを獲得する上で必要不可欠になってしまった。これはアイドル業界全体に根差した構造的な問題といえます」(同)

ファンもアイドルも現実を冷静に見つめ直す時代が来ているのかもしれない。

河西邦剛●レイ法律事務所。芸能・エンターテインメント分野の統括責任者であり、数多くの芸能訴訟や事件の代理人を務める。テレビ、新聞、ネット等の幅広いメディアから取材を受ける。アイドルグループや舞台のプロデュース実績も有する。

取材・文/千駄木雄大