法的に認められていない「恋愛禁止」とファンの“理想”

アイドルも人間である以上、いずれは彼氏や彼女との交際期間を経て、結婚や出産という道に進むこともあるだろう。

しかし、交際が発覚したことで、事務所から解雇や脱退を余儀なくされたり、場合によっては損害賠償を求められるケースもある。さらには「恋愛禁止」を錦の御旗に掲げたファンから徹底的に糾弾されることも。

「アイドルは恋愛禁止」という法律は存在しないのに、行為と代償がアンバランスになってはいないだだろうか。

『清く楽しく美しい推し活〜推しから愛される術』(東京法令出版)などの著書を持つ、レイ法律事務所の統括パートナー弁護士・河西邦剛氏は法律の観点からこう指摘する。

「法律的に誰かに何かを禁止するには、“契約”が必要です。アイドルは所属事務所とマネジメント契約を結んでいますが、その契約書に記載されていたとしても、すべてが有効になるわけではありません。

かつて、とある女性アイドルと、彼女が所属していたグループの運営会社との間で裁判となりました。彼女がファンとの交際を始めたことをきっかけに、イベント出演などを一方的に放棄したと主張しため、運営会社は被告であるアイドルの両親に対し、監督義務違反を理由として損害賠償を請求しました。

2016年には、『異性との交際は、人生を自分らしくより豊かに生きるために大切な自己決定権である』という理由から、恋愛禁止に基づく損害賠償請求を認めない判決が出ています。つまり、現代においては、『恋愛を禁止する契約』は、2016年以降の裁判例において基本的に有効性が認められていないのです」

過去には恋愛禁止条項が有効とされた裁判例も存在していたが、2016年以降、裁判所ではそのような契約の有効性をほとんど認めなくなっている。

「さらに近年では、契約当事者の交友関係を制限したり、それを破ったことによって不利益を与えるような損害賠償請求を行なったり、契約違反を理由に処分し、その事実を公表すること自体が人権問題になりかねません」(同)

それでもアイドルの熱愛疑惑が浮上すると、ファンたちはなぜ非難の声を上げてしまうのだろうか?

「熱愛が発覚したアイドルに対する誹謗中傷には、『裏切られた』『メンバーとしての自覚が足りない』『ほかのメンバーに迷惑をかけるな』『グループの質を落とすな』といった声が挙げられます。

しかし、ルール違反があったかどうかは明確に認定できません。つまり、こうした訴えはファンの“願望”や“理想の押し付け”にすぎない場合が多いのです。『好き』という気持ちが、いつの間にか『こうあってほしい』という理想に変わってしまうのです」(同)