「家賃を払うためにはそういう商売を…」
店主の体感では、南ヨーロッパなど英語圏以外からの観光客が少し行儀が悪い印象で、英語もなかなか通じないため、注意が難しいそうだ。一方で、アジア圏の人のマナーがいいと感じることもあり、「これはもう、文化の違いですから仕方ないんでしょうけど」と語る。
「日本人とは相いれへん文化もあるわけで、だからやっぱりここで言ってももう限界があるのかな。それであればやっぱり、日本ではこういうルール・マナーが守られてるっていうのを、こっちに来る飛行機の中で流すとか、そういうことを国がやるべきやと私は思います」
さらに観光地として人が集まる錦市場では、今や家賃・土地代が非常に高くなっている。こうした面も、市場の様変わりを助長している要因になっているとも……。
「高い家賃を払うためには、必然的に単価の高い商売をするしかないですよね。こういう地道な商売してると、今の家賃は払えない。店の大きさにもよりますけど、下手すると家賃だけで月100万円超えたりするみたいなんですよ。
だから、跡継ぎがいないお店が家を貸すようになったりしています。家賃収入で、働かなくても勝手に家が働いてくれるからね。その方がいいって思っちゃうんじゃないですかね」
伝統的な京都の食文化を発信してきた“京の台所”がインバウンド市場に変わったことは少し寂しい気もするが、古くから商売を営む店の中には、この状況に希望を見出している人もいる。50代で肉屋を営む男性店主が語る。
「錦市場が変わったことは、もう受け入れるしかないですね。常連のお客さんの中には、確かに『最近は人が多すぎて行くのを控えている』という方もいますが、それでも我々は受け入れて、今の状況に合わせて商売をしていくしかないです」(肉屋の男性店主、以下同)
時代の変化に合わせて同店では、その場で食べられる商品の販売を始めたそうだ。もちろん食べ歩きはダメなので、「この店の前で食べていって」と声をかけているという。
「来てくれることは嬉しいですよ。多少なりともその恩恵はありますから。でも食べた後、ゴミをその辺に捨てていく人もいるんです。朝は掃除から始めないといけなくて。以前は日本人のお客さんがメインだったから、こんなことはなかったんですけどね」
観光地として変わっていく錦市場。地元の人々が守ってきた「京都らしさ」を大切にしつつ、上手く調和していってほしい。
取材・文・撮影/集英社オンライン編集部