個性を尊重する結婚で、人生の楽しみを倍に
地元・大阪に本社を構えるハウスメーカーの社長まで登り詰めたY.Kさんは、関連会社の会長職を辞した58歳のときに、スペイン人ダンサーのF.Xさんと結婚しました。
2人は、Y.Kさんが友達に誘われてF.Xさんのショーを見に行ったときに出会います。当時のY.Kさんは40代後半。課長に昇進し、人前で話すことが増えたので自己表現を学ぼうと演劇を習い始めたころ。ダンスにも興味があったといいます。一方のF.Xさんは名古屋を拠点にダンス教室や振付師など幅広い活動をしていました。
Y.Kさんは大阪でも教室を開いたらどうかと提案をして、その手伝いをしているうちにお付き合いが始まります。
アーティストとして生きてきたF.Xさんの視点や感性は、ビジネスパーソンのY.Kさんと大きく異なり、これからの人生を補い合って生きていけるのではと結婚を考えるようになったといいます。
けれども当時のY.Kさんは、出世街道をものすごい勢いで突き進んでいたころでした。実はY.Kさんは均等法施行の3年前に「女性総合職第1号」としてハウスメーカーに入社。商品開発などの現場で目の前の仕事を一生懸命やってきたものの、女性だからという理由で昇進が遅れていました。
46歳のときに経営戦略室に異動になって社長直下で仕事をするようになると、ようやくその働きぶりが認められ、47歳で課長、50歳で執行役員、その後常務執行役員、専務執行役員を経て、あれよあれよという間に54歳で社長に就任したのです。
大役を果たすには仕事に集中する必要があり、結婚はしばらく延期に。これはY.Kさんにとっては当たり前のことで、F.Xさんもよき理解者でした。
そしてY.Kさんが「やりきった」と思えた4年後に2人は結婚をしたのです。現在のY.Kさんは大阪に拠点を移したF.Xさんのダンス教室の運営やマネジメントを担いながら、経営者としての経験を活かして4社の社外取締役を務めています。
「結婚という形をとったのは外国人の彼の暮らしやすさを考えてのこと。大人同士なので窮屈さはなく、彼の心の底から喜びがわいてくることをしないと人生がワクワクしないという言葉に共感しながら、毎日を楽しんでいます。
会社にも縛られない還暦からが本当の青春。親にも誰にも遠慮なく、本当の自由が待っていました」と語るY.Kさんはとても幸せそうです。
大人同士だからこそ、異なる個性を認め合い、人生の楽しみを倍にすることができるのでしょう。でも考えてみたら、長年一緒に暮らしている夫婦だって「大人同士」。
S.Kさんのように、もう一度「個」として向き合ってみれば、新たな人生の楽しみが見えてくるかもしれません。そして「還暦からが本当の青春」という言葉は、すべての60歳に贈りたいと思います。
Y.Kさんのように、好奇心と向学心をもって活動範囲を広げると、素敵な出会いがあるものです。
いずれにしても人生100年時代のパートナーとの関係は、ますます多様になっていきそう。本当に誰にも遠慮する必要はありません。自由に自分らしい形をつくっていけるといいですね。
文/河野純子 写真/Shutterstock