悲痛な叫びだけではない! 表面化しにくい市民の声

テレビや新聞など日本のメディアの対応にも追われた。そのリクエストに応えるため、キーウの街の様子をスマホで撮影中、ウクライナ軍に見つかってしまい、スマホを容赦なく取り上げられた。

ウクライナ在住20年-「隣国同士で憎しみ合うのは残念」_3
人通りが戻りつつあるキーウの街だが…

「画像を確認され、メンコみたいに地面に叩きつけられてぺちゃんこになりました。僕の認識が甘かった。やはり戦争中なんだと実感しました」 

日本の報道関係者に対応する中で、気づいたこともある。

「日本ではウクライナが相当ひどい状態に置かれているような報道をされていますが、キーウ市内はそこまでダメージを受けているわけではなく、私の周りには大きな被害はありません。報道内容と現実は随分と乖離しています」

ニュースで流れる被害の様子と現実とのギャップ。それが生まれる背景には、ウクライナ政府による情報戦の巧みさがあると指摘する。

「IT大国のウクライナは確かにメディアの使い方には長けています。もちろんロシアもプロパガンダを流しているので、お互い情報戦をやっているんです。ウクライナは一方的に攻められている側なので、自分たちの有利になるようメディアを使おうという考えはあるでしょう。

ただ、被害ばかりをアピールし、ロシアを絶対悪にすることには疑問もあります。なぜならロシアとウクライナが隣国である事実は未来永劫変わらない。常に憎しみ合う関係が続くのはまるで北朝鮮と韓国みたいで、やはり腑に落ちないですね」

善悪による分断が進む中、こうした声はあまり表面化しない。

戦争終結の見通しが立たず、犠牲者ばかりが増え続ける中、同じような葛藤を抱いている人は他にもいるかもしれない。

廃墟に掲げられたウクライナ国旗
廃墟に掲げられたウクライナ国旗

閉館していた日本ウクライナセンターの図書室は、4月下旬に再開した。

「お茶とお花の教室もようやく始まりました。閉館が続けば、ビザの関係で国外に出なければならなかったのですが、このままウクライナに滞在できそうです」

そう語る中村さんの声が、明るくなった。

取材・文・撮影/水谷竹秀

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空爆された街の廃墟に咲くチューリップ
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