日本で低金利が続いてきたデメリット
服部 日本において金利が長い間低位で推移したことについて、当然良い面もあれば、悪い面もあると思います。今ご説明いただいたことに繋がってくるのですが、その功罪についてはどのように整理されていますか。
神田 低金利は、本質的には経済成長力が低くて、資金の余剰が続いてきた結果でもあるんですね。特に新陳代謝を促す構造改革が進まないので、潜在成長力が上がらず、しかたなく続けたとこもあると思いますが、結果として、資金調達が容易になるため、設備投資や住宅ローンを支えて、景気を下支えしたとされます。過度の円高を是正したのは金融政策のおかげで、その貢献は大きいと思います。
しかし、設備投資はこの20年間増えてないですから、投資促進といった効果があったのかは疑問する向きも多いです。一番効果が大きかったのは皮肉なことに政府の利払い負担の減少であり、財政規律を弛緩させたという見方も聞かれます。
デメリットのほうはもう明らかで、三つだけ挙げると、一つは、グローバルな環境変化と人口減少で、資金余剰が続かないであろうということです。低金利が長期化すると、金融機関、とりわけ地方金融機関の収益力が低下して、金融システムの脆弱化が進行しました。銀行セクターのバランスシートに関しては、金利上昇局面では、当然、債券価格が下落して悪化しますから、これは将来の貸し出し行動への悪影響も指摘されます。これは一番狭い意味でのデメリットとして金融の関係者が言うことですね。
二点目は、低金利が新陳代謝を促すという普通の市場経済のメカニズムを毀損しているという点です。これは一番重要だと思っている点です。要するに、明らかに生産性が低い、持続可能性がない企業も市場に残り続けてしまうので、そこに貴重な労働力や資本がはりついてしまい、経済全体の効率性が損なわれるし、こんな国際的に低い最低賃金ですらもたないということになります。
深刻なのは、人口減少問題にも悪影響が出ることです。足元は人手不足になっており、供給制約がある以上、大きな失業リスクを抱えずに、生産性の高い分野に労働移動を行いやすいときです。より生産性があって、より高い給料が払えて、夢のある企業に人々が移っていくというのは普通の市場経済ですよね。残念ながら、持続可能性がない企業は淘汰されていきますが、ちゃんとセーフティネットを完備して、リスキリングなどを行い、より幸せなところに労働力が移るようにするチャンスだと思います。
三つ目は、これは異なる意見の人もいると思いますが、低金利は、資産市場の過熱、特にリスクアセットの流動性を高めてしまう可能性がある点です。株式、不動産価格を含めて、バブルリスクを高める要因になっていて、これはいずれ破裂するリスクがあります。
経済が正常化しているときは、政策も正常化する機会だし、また経済環境が悪化すれば改めて発動すればよい、つまり、その余地を形成するタイミングとも言えます。現在は、最新のデータをしっかり見ながら、なるべく可能な範囲で、ノーマライズをしていくことが望ましいと考えています。