この世から「国債がなくなる」と…

政府の借金が増えすぎているため、借金が増えれば国民負担も増え、将来世代にツケを回す。そういう論調は根強く残っているが、国債は決して悪ではない。実際に景気を底上げする効果があるのに、そのことを理解していない人が多い。

そもそも、国債がこの世から消えたらどうなるのだろうか。借金がゼロになっても、国民負担がゼロになるわけではない。むしろ大問題が生じる。

その意味を知るには、国債のもう一つの側面を理解することが重要だ。それは「金融市場における国債」という顔である。

日本の金融市場のイメージ 写真/Shutterstock.
日本の金融市場のイメージ 写真/Shutterstock.
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国債は政府の「借金」であると同時に、金融市場において必要不可欠な「商品」でもある。金融市場では、株式や社債と同じように取引されている。

基本的なことを先に確認しておくと、金融市場では国債と株式、国債と社債を交換する取引が行われている。

例えば、A社の株式を持っている人が、その株式をB社の社債と交換したいと思っても、B社側に「A社の株式は受け取らない」と断られたら交換はできない。しかし、国債との交換なら簡単にできるため、まずA社の株式と国債を交換し、その後に国債をB社の社債と交換するという取引が行われる。

つまり、国債がなくなると、株式や社債の取引が減少してしまうのだ。

企業は銀行からの融資だけでなく、株式や社債でも資金調達をしている。そのため、国債がなくなれば資金繰りがたちまち悪化する。金融市場における国債は、他の商品と簡単に交換できる使い勝手のいい金融商品という役割を果たしているのだ。

なぜ企業が、株式や社債取引の中継としてわざわざ国債を保有するのか、疑問に思う人もいるだろう。その理由は、現金をそのまま保有しているだけでは、利益は生まれないからだ。一方、国債は政府の借金であるがゆえに利子がつくため、企業は国債を保有しているだけで利益が生まれる。金融市場では利払いのやり取りを通じて、経済が活性化する。

銀行がいい例だ。銀行は、国民の預金がいくらあっても利益は生まれず、融資をしたり、国債でわずかの利払いでも得たりしていかなければ、商売を続けられないだろう。国債がなくなると、金融関係者の仕事が失われる可能性もある。