『投資の教科書』はなぜ「株式」をメインにしたのか

服部 後藤さんとお話するのは初めてなんですよね。本日はありがとうございます。

後藤 服部先生とは同世代なんですよね。さっそくですが、2023年に出された『日本国債入門』(金融財政事情研究会)と、今回リリースされた新書『はじめての日本国債』のすみ分けやコンセプトの違いはどのようなものでしょうか。

服部 『日本国債入門』は、金融機関の実務家に読んでもらうイメージで書いたんですよね。この本は半年くらいで1万部ぐらい売れて、想像以上に多くの人に読んでもらえました。この数年間、金利についての話題が増えており、国債や金利の知識にニーズがあったのだと思います。一方、今回リリースした『はじめての日本国債』は新書なので、完全に一般向けに日本国債を説明しました。前提知識が全くなくてもわかるよう、できるだけわかりやすく書きました。

後藤さんの『投資の教科書』も参考にさせていただきました。後藤さんの書籍は、「株式の教科書」という印象をうけました。今、投資といえば、株式投資というイメージでしょうか。

後藤  例えばNISAなどで初めて投資をしますという人は、最初は株とか投資信託であり、株のインデックスが大半ですよね。投資をする際にも、株・為替・債券がありますが、その中でも、債券は一番敷居が高いというか、生活に一番遠いものでもあったりするわけですよね。どれももちろん投資ですし、体に余裕がいくらでもあればいろんなことを書きたいんですけれども、今一番求められているという観点で言うと、やや株に寄ったというところでしょうか。

後藤達也氏
後藤達也氏
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日銀と金利に注目が集まる理由

服部 『投資の教科書』のもう一つの特徴は、金融政策について紙面を割いて説明している点もありますよね。

後藤 日銀に対する関心は、ここ数年で上がったと思います。特に、ものすごい円安になり、その大きな一因が日銀でもある。日銀の会合があるたびに株とか為替が動いたりするので、日銀自体にもともとそんなに興味がなくても、株や(私は必ずしも推奨しませんが)FXをやっている人などからすると、すごく大きなイベントになってきます。難しそうだけれども、自分のやっている投資に関わると学ぶ意欲が飛躍的に上がると思うんです。

もちろん、金融政策そのものの変化をいえば、例えば2013年、14年あたりの黒田体制初期の頃のほうが大きかったかもしれませんが、NISAが始まった今と比べると投資をやっている人の数が少なかったともいえます。金融政策に興味のある人の母集団は今のほうが多分多く、国民全体からみて、ひょっとしたら日銀に対する関心は史上最も高いのかもしれないです。

服部 金利についての関心も飛躍的に上がったと思います。金利が動き、為替が動くと、株にも影響を与えるし、円安になると、輸入品のiPhoneが高くなるなど、生活に直結していきます。

後藤 そこは大きいでしょうね。特に2022年や2023年あたりは、国際的にも、金利の動きは激しいものでした。従来だったらアメリカの金融政策に興味のある人は少なかったと思います。だんだんアメリカの金利が大きく動き始めて、アメリカの金融政策をちゃんと見とかなければいけないなというのが一般個人にも浸透してきた感じだったんですね。

当時、10年債がちゃんと落札されるのかみたいな文脈で、アメリカの国債入札が注目されていた時期がありました。でも、そもそも入札ってなんですかとなるじゃないですか。私はそのときマグロの競りで例えていたのですが、かなり反応があったんです。通常の株のツイートよりも、桁が1個違うぐらいインプレッションがあった気がするのですが、そういうことなんだなと思いました。

これが逆に、例えば世の中が落ち着いているときに、皆さん興味ないかもしれないけど、実はアメリカの国債に入札というものがあって、これをマグロの競りに例えてご説明しますねといっても、多分、全然伸びないですよね。わかりやすく正確に例えられたとしても興味ないので要りませんとなってしまう。

しかし、難しいけど知らなきゃいけないとなると急に関心が高くなるんだと思うんです。例えばコロナでも、コロナウイルスとかワクチンとは何なのか、今まで知らなかったけど急に知りたくなる専門知識が、SNSなどで爆発的に増えるというのは、アメリカの国債でも感じました。伝える側としてタイミングはすごく大事だなと思います。

服部孝洋氏
服部孝洋氏