債券と金利のわかりにくさ
服部 金利について関心が上がってきたとはいえ、本屋に行くと、株のコーナーが圧倒的に大きいですよね。金利については一定のコーナーがあることもありますが、債券や国債になるとないことがほとんどです。
私自身は、国債や金利についてわかりやすい書籍が少ないと感じていました。私は金融機関や政府での経験もあり、かつ、現在、大学で学生に教える立場なので、かなり幅広いオーディエンスに金利や国債について説明してきましたが、『はじめての日本国債』はその経験を本にしたというものでもあります。例えば、役人からみても、証券会社が出す債券や金利のレポートは前提とする知識が多すぎてわかりにくいという声をこれまで聞いてきました。
後藤 今回の書籍は、日本国債が中心になるんですか、それとも、海外債券も含むものですか。
服部 海外の債券について書きたい気持ちもあったのですが、今回は日本国債に絞りました。日本国債の研究者として、もっと日本国債の基礎を普及したいということもあるし、米国債も含めると、日本国債の内容が薄くなってしまいますよね。僕らにとって銀行預金や保険は身近ですが、銀行や保険会社も実は国債を購入しています。金融システム全体を知る上でも日本国債を知る価値は高いと思います。
あと、日本の財政再建の議論は、財政再建派と積極派でものすごく熱くなるテーマですよね。私はその議論で重要な日本国債というプロダクトについて、そのどちらの人にとっても必要な知識、例えば、財務省は実際にどのように発行計画を立てているかや、投資家はどういうインセンティブで国債を買っているかなどを明らかにすることが建設的な議論につながるんじゃないかと思っています。
後藤 現実の整理であって、双方、材料に使ってくださいっていうことですね。新書ではテキスト中心に記載されたのですか。
「金融」をどう面白く伝えるか
服部 『はじめての日本国債』ではかなり図表を入れるなどの工夫をしました。ただ、やはり金融について書くのは難しいですね。講義では、学生の顔をみて、濃淡つけられるのですが。
後藤 講義だとこの内容はもう飛ばそうみたいなこともできますよね。
服部 はい。あと、書籍がこれだけある中で、飽きさせずに読んでもらうというのは、やっぱりすごく難しいので、各章だけ読んでもある程度理解できるようにしたり、前半に債券や金利の基礎を集中して記載し、最初の2章くらいだけでも読者が得られるものがあるよう工夫しました。
あと、先ほど日銀への注目が高まっているという話がありましたが、日銀の行動は、関心が高いことから3章分使って書きました。日銀の決定会合はどういうものかや、日銀は国債を実際にどのように買っているか、利上げ確率の考え方などです。最後は最近の話題をカバーするため、利上げの話や量的引き締め(QT)の話で終わるという構成にしています。個人にとっては個人向け国債が身近な商品になりますが、個人向け国債の良い導入にもなるとおもいます。
日本国債がわかると、米国債など海外の債券が分かるというメリットもあると思います。イールドカーブの理屈の部分は同じだし、先ほどお話のあった入札方法についても類似性は高いです。個人的には、日本国債の本として向こう10年間くらい読まれる書籍にしたいという思いで書きました。
後藤 これからじわりじわりと債券を学びたいというニーズは増えてくると思います。金利が上がりそうだからということもあるんですけれども、起点はNISAとか株とか為替だったかもしれませんが、それを取り巻く色々なニュースでも関心のアンテナが伸びる人は増えていると思うんですよ。
だんだんそういうのを学んでるうちに、株で儲けるために学ぼうではなくて、ニュースをつなげること自体が楽しくなってくるような知的好奇心が出てくると思うんですよね。であれば、日銀のことを何となく物価が上がってるから利上げしなきゃいけないけど、でも、利上げしたら、景気が悪くなって大変だよね、くらいなところまでは理解できている。しかし、国債はわかんないんだよなと。
でも、何かわかりやすいのがあったら知りたいというニーズは結構広がってくると思うんですよね。いい意味で経済に関する国民の知的好奇心が今までにないような高まり方を見せ始めているので、そこにはまるような教材があるといいですよね。株式に比べ、国債は専門知識もあって、きちんと説明できる人って、かなり少ないので、その意味では貴重ですね。
取材・構成/日野秀規 撮影/内藤サトル