A社の本社所在地は雑居ビル2階のレンタルオフィス…
実際、A社は実態不明のペーパーカンパニーの様相を呈している。
会社謄本によれば、A社は、別の人間がインターネット通販業を目的として、21年に資本金500万円で設立した合同会社だった。
それが翌年6月に会社譲渡されたとみられ、中国の遼寧省を住所とした中国人が新たな代表となり、事業目的欄に「不動産の売買・管理・賃貸」が加えられた。さらに昨年5月には、板橋区を住所とする中国人名の男性が共同代表として加わった。
A社は譲渡された後、本社所在地を昨年3月に台東区北上野、7月に中央区日本橋馬喰町へと、移転を繰り返している。
現在の本社所在地は雑居ビルの2階。ここは月額1万5000円で借りられる、一人用の机と椅子が置けるだけの極小の部屋が並んでいるレンタルオフィスだ。値上げ通知書に書かれたA社の連絡先は携帯電話番号だった。
地元の不動産業者によれば、男性が住むマンション全体の土地と建物の価格は「家賃収入から考えれば2~3億円」という。
決して小さくない額だが、A社が購入したときに抵当権は付されておらず、キャッシュで支払った可能性が高い。
ともあれ、男性は突然の値上げを受け入れられるはずもなく、その是非を調べた。
「ネットで検索すると“値上げに応じる必要はない”と書かれているし、東京都の住宅政策本部に電話をかけて相談しても同様でした。
また、地元で開かれた無料法律相談会に行くと、女性の弁護士に、『今までの家賃を払っていれば追い出されることはありません。一緒に闘いましょう』と言われました」(男性)
借地借家法では、借り主が保護されている。貸し主が家賃値上げを請求することはできるが、認められるのは物価上昇など「経済事情の変動」があった場合、または「近傍同種の建物の家賃」に比べて安くなった場合だ。
家賃の額は、貸し主と借り主の合意で成立し、借り主が家賃値上げに不服の場合、同意せず、従前の家賃を払っていれば追い出されることはない。
それでも貸し主が家賃値上げを求める場合、裁判に訴えることになる。しかし今回の値上げは明らかに不当であり、弁護士の見解によると裁判所が認める可能性はないという。
男性は、借り主が保護されていることを知り、いったんは入居を続けるつもりになった。しかし値上げ通知書の投げ込みから1カ月経たないうちに、転居に追い込まれた。いったい、何があったのか?
〈後編へつづく『退去した部屋の前に届く謎の荷物、家賃3倍値上げ、不審者…住民が直面した恐怖の瞬間』〉
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取材・文/坂田拓也 集英社オンライン編集部ニュース班