被害者は泣き寝入りせず、声をあげてほしい
Nさんは当時をこう振り返る。
「母とのコミュニケーションについては、マインドコントロールを受けてしまった人への接し方をもっと勉強するべきだったのかもしれません。現在進行形でお金を搾取され、さらに病気に冒されて衰弱していく本人を目の当たりにしながら、家族が冷静でいるのはとても難しいことですが」
そもそも人はなぜ詐欺にハマってしまうのか? 被害者のマインドコントロールを解くには、本人の背景にある根本的な原因や心情を理解することが大切だ。
多くの場合、彼・彼女らは心の拠りどころを求めている。特に病気に苦しんでいる人ならなおさらだ。詐欺師はそこにつけ込み、本人と社会とのつながりを分断し、囲い込むことで情報操作しマインドコントロールする。
「一度信じ込んでしまった人の考えを変えることは簡単ではありません。たとえ仲のよい親子であっても。それが詐欺の恐ろしさです」
また、医療詐欺では、医師の名前を使うなどして権威性・信頼性を高めようとする手法がよく用いられる。たとえ「ベテラン医師」や「名誉教授」の話でも、きちんとしたエビデンスに基づかない意見は参考程度にしかならない。また、医師が金儲けのために根拠のない自由診療を提供するケースも多い。
今回の事件では、X社に加担した医師は、知らぬ存ぜぬを通している。こうした悪質な医師に対し、医師免許剥奪などの罰則を強化すべきだという意見もある。
また、そもそも「病気に効く」という民間療法のほとんどに科学的に根拠がない。一般に医薬品は非常に厳しい臨床試験、および国によって定められた数多の品質チェックなどをすべてクリアし、確実に効能・効果が認められたものだけが認可される。
もし本当に健康食品会社ががんに効く商品を開発したのなら、それは国に認可された「医薬品」となり、保険適用になっているはずなのだ。その方が健康食品会社にとっても利益になるのに、それをしていないということは、要するに効かない商品ということである。
しかし、法的な規制は難しく、患者自身が自衛するしかないのが現状だ。
「がん患者さんは、病気に関するさまざまな情報が集まってくることにより、その玉石混淆の内容に振り回されてしまうこともあるのではないでしょうか。まさに母がそうだったのだと思います。でも『必ず治る』『副作用はまったくない』などといった言葉には十分な注意が必要です」とNさん。
一方で、医療をかたる詐欺商法は、被害者の「自己責任」などといった言葉で片付けられるものではない。
「もしご自身や周りで詐欺の被害に苦しんでいる方がいたら、泣き寝入りせず、どうか声をあげてほしい」とNさんは願う。
「詐欺のターゲットにされてしまう人たちは、孤立していて助けを求められない場合が多い」と語り、被害者の会を設立して、被害防止のための啓発活動や法改正の必要性を訴えている。
「母のような被害者を一人でも減らしたい。母と私の軌跡が、今、悔しい思いをしている方の一歩を後押しすることにつながればうれしいです」
母との思い出を胸に、Nさんは今日もその一歩を踏み出し続ける。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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