「私が悪かったんだよね」自責の念に苦しんだ末に……
裁判が順調に進む一方で、Nさんの母は体調が優れない中、気丈に裁判に取り組んでいたが、裁判の過程では関連書類などに何度も目を通さなければならない。
特に信頼していたAや加担した医師からの、「あなたが自分の意思ですすんで買ったものだ」という、手のひらを返すような冷淡な主張書面を見て、次第に心を打ちのめされていった。
「私が間違ってたんだよね、喜んでヨウ素製品とか買ってたから……自分が悪いんだよね」
いつしか母は、自身を責めるような言葉をNさんの前で口にするようになっていた。Nさんは懸命に「そんなことないよ。騙された人が悪いんじゃなくて、騙すための仕組みを作って陥れようとする方が絶対的に悪なんだよ」と伝え続けた。
しかし、母が受けた心の傷はあまりに深かった。
10回を超える裁判が続いたある日、裁判所の帰りに母は「私……もう怖いよ。なんでこんなことになっちゃったんだろう」とつぶやいた。
心配したNさんが「母さん頑張ってるんだから、このあと美味しいもの食べよう! 私がおごるよ!」と言ったが、母は「寒いよ…今日はもう帰りたい」と首を横に振った。
仕方なく、Nさんは母の日のプレゼントとしてアロマグッズと、「美味しいもの食べてね」と1万円を渡して別れたという。
その日からおよそ3日後の、2024年5月のある日、母は自ら命を絶った。母の財布には、Nさんが渡した1万円札が使われずに入っていた。
母がA及びX社と出会ってから約4年、最初の提訴から2年ほどが経とうとしていた。
Nさんは原告を引き継ぎ、裁判を闘い続けた。そして東京地検が起訴した刑事裁判では2024年9月、Aに有罪判決が下り、懲役3年、執行猶予5年などの判決が言い渡された。
そして医師に対する民事裁判の判決文には、加担した被告の医師に対し、「X社の不法行為(虚偽の情報提供)を幇助したものとして、医師にも共同不法行為責任がある」ということが明確に盛り込まれていた。
つまり、騙されたのは被害者側の自己責任ではなく、X社の商法は不法行為として法的に認められた“勝訴判決”だった。
同様の詐欺・詐欺商法に苦しむ人には希望の光となる勝訴判決だったが、しかし、Nさんの母が、その判決を聞くことはなかった。