執行猶予つきの判決に 「やった!」と仲間がほくそ笑む
2024年9月、東京地裁で、ある詐欺商法事件(罪名は①金融商品取締法違反、②犯罪収益移転防止法違反、③所得税法違反)の被告人Aに対する判決が言い渡された。
「懲役3年、執行猶予5年」――。多くの人を絶望の淵に追いやったにもかかわらず、執行猶予がついてしまった。その瞬間、傍聴席からは「やった!」という声が上がった。声の主は被告人Aとともに詐欺商法に関与していた者たちだ。思わず出たその言葉は、彼らの本音だっただろう。
母が被害に遭い、今は被害者の会代表を務めるNさんは耳を疑った。まるで「これでまた詐欺商法を続けられる」と言わんばかりの言葉。
Nさんの母は被害に苦しみ、命を絶っていた。母の命を奪い、多くの被害者を絶望の淵に追い込んだ詐欺商法の中心人物であるAは、有罪判決を受けたとはいえ、執行猶予という形で自由の身になる。
そして今、Aは新たに設立した別の会社で、スキームを変えて再び同じ詐欺商法を繰り返そうとしている。
母から原告を引き継ぎ、これまで2年以上にわたり闘ってきたNさんをはじめ、被害者とその家族にとって、執行猶予つきの判決は到底受け入れられるものではなかった。
Aが自由を手に入れた一方で、Nさんたちが失ったものは金銭だけでなく、自身の、あるいは愛する家族の命そのものであった。
医療と金融の二重の詐欺商法スキーム
すべての始まりは、乳がんだった。
Nさんの母が乳がんのステージⅡBと診断されたのは2014年のこと。治療は順調に進み、5年後の2019年には寛解を迎えていた。しかし、がん患者にとって「寛解」はゴールではない。日々心を苛むのは、再発の恐怖である。
「再発したらどうしよう」「次にがんが見つかったら、もう助からないのではないか」。そうした不安は、Nさんの母だけでなく、多くのがん患者が抱える共通の心情だ。
その心の隙間に入り込んできたのが、A率いる健康食品販売会社のX社だった。
X社は、「がん治療に効く」「再発を防ぐ」とうたうヨウ素製品を販売していた。その製品を買うためには、その会社の株主になる必要があり、がんに苦しむ患者に向けて、自社の未公開株も売りつけていたのだ。その株式も値上がりが期待できると煽った。
つまり実態は、医療と金融の二重構造からなる詐欺商法スキームであった。