ライナーノーツの制作で聞かれた「どこの即売会に出しますか?」
──新刊『消息』でもつづられていましたが、小袋さんは5年在籍したソニーとの契約を更新せず、独立されたそうですね。どういう経緯があったのでしょう?
レコード会社の基本的な契約はLP・CD 時代に作られたものなので、現在の音楽ビジネスの現状とは乖離のある条件が残っているんです。
契約したときは自分にも経験値がなかったから、そういう歪みが理解できていなかったのですが、明らかに今の時代にあっていないと思うようになりました。契約の見直しができないかと掛け合ってみたものの、絶対に変えられないと言われてしまって……。
スタッフの皆さんはすごく優しいしお世話になったんですけど、独立の道を選びました。今はCDのディールだけソニーに委託して、基本的な権利は全部自分が持ってます。
1月にリリースしたアルバム『Zatto』は全部自分で作りました。参加してくれてるアーティストのブッキングはもちろん、ミキシングもYouTubeで勉強しながらまずは自分でやってみました。
凝ったライナーノーツも制作して、同人誌の印刷業者に発注するぐらい超DIY。業者から「どこの即売会に出しますか? サークル名は何ですか?」と聞かれましたからね(笑)。こんなことソニーにいたら絶対できなかっただろうなぁ。人生で初めて達成感を得てるのが今かもしれない。
──ロンドンでの生活で世界情勢についても考える機会が増え、エッセイではガザやウクライナに対する想いもつづられています。一方で、世界はトランプ政権の復活など揺り戻しも起きています。こうした社会をどう捉えてますか?
俺がいる場所は本当に局所的で、自分と真逆の考えを持つ人がメジャーであることを実感しました。俺は世の中の9割9分のことを知らなくて、それを自覚しないといけないと思ってます。自分と違う意見を持つ人の話をもっと聞いていきたい。
グローバルな問題だけでなく、生まれ育ったさいたま市にも、ロンドンにもいろんな課題があるし、意見の衝突がある。自分はいろんな粒感の話を聞ける立場だから、常に耳を傾けていきたいです。
自分にもきっと偏見があるんだろうけど、人種や見た目で人間を判断せずに、眼球の奥だけを見て人付き合いをするようにしている。
文章を書いてると、自分の中の偏った目線に気づいて、気持ち悪くて全部消すこともあります。