ニルヴァーナを聴きながら、日雇いでマンションを解体した日々
──新刊『消息』は「自己紹介」というタイトルのエッセイから始まりますが、音楽活動についてはほとんど触れずに、日雇いで解体工事をしていたとか、ゴミ収集車に乗っていたとか、華やかなパブリックイメージと違うことが書かれていて驚きました。
小袋成彬(以下同) 確かに音楽のことを書いてもよかったですね。エッセイは音楽で出しきれなかったことを書きたかったので、自然とこうなったのかな。
音楽では食っていけない時期でも、楽しかった。ニルヴァーナを聴きながらマンションを壊すのは快感。治安が悪くて、現場で財布を盗まれたこともあったんですが。
──こうした生活に行き着く前には就活もしていて、「内定がもらえなくて焦ってた」とも書いてます。もし、内定していたら音楽はやめていたと思いますか?
本では具体名こそ伏せましたけど、俺はマガジンハウスの最終面接までいったんです。もし受かってたら、今ごろ一生懸命「BRUTUS」を作ってたかもしれない(笑)。
当時は、大学を卒業したら「社会人」になり、毎日働いて結婚して郊外に家を買って……みたいなレール上にある人生を「いいもの」だと思い込んでいました。音楽活動は学生時代からしてましたけど、就活が終わって逃げるように実家を出ました。
俺は「やる気がでないのは環境が原因」だと思っていて、このままいくとダメな方向にしかいかない気がしたんです。あと単純に一人暮らしもしてみたかった。
──住んだ先は茗荷谷にある曹洞宗のお寺。どうやって見つけたんですか?
バイト先の先輩がそのお寺の宿舎に住んでる坊主だったので、彼から「1年後に取り壊しが決まってるけれど、それでもいいなら住んでいいよ」と紹介してもらいました。その先輩は坊主でありながら、ダンスもやっていて、マッシブ・アタック(イギリスの音楽ユニット)を愛聴してるようなかっこいい人だったんですよ。
そんな風に、水道とガスが止まった5畳ほどのスペースで、自主レーベル「Tokyo Recordings」を立ち上げて、バイトと音楽制作に明け暮れてました。