「世の中を書き留めていきたい」
数々の怪人たちと仕事で関わってきた本橋さんだが、その原点となる村西氏の現在についてこう語る。
「村西監督のスタッフたちは、”サンドバッグ軍団”と呼ばれていました。社屋に寝泊まり、働きずくめ、時には男優に早変わり(笑)。
普段は沙羅樹、藤小雪といった専属女優たちの作った料理を食べていました。Netflixの『全裸監督』でも食事シーンが出てきます。
村西監督とは今でも交流はありますよ。『全裸監督』が世界配信されたことで、日本国内のみならず世界各国から取材を受けています。
前科7犯、借金50億、アメリカ司法当局から370年求刑されるという極めて希有な半生を送りましたが、さまざまな苦難を乗り越えたことと、現在マネジメントをしている女性マネージャーが優秀ということもあって、かつての暴君もだいぶ穏やかな顔つきになりました(笑)」
男性の欲望を満たすものが街に堂々と溢れ、女性は肉体を誇示し、札束が乱れ飛ぶ……そんな、昭和後期からバブル期の狂乱の時代を傍観し続け、したためてきた本橋さん。取材中、意外なことに、「あのころはよかった」という言葉が、一度も出てこなかった。
「シャイで人見知りだった男が、俗悪で過激な世界に飛び込んだり、初対面の女子大生に突っ込んだ質問をしたり、AV女優に試行錯誤しながらインタビューしたり。仕事になると、普段の自分とは異なるキャラになっていました。
普段は無口で無愛想な役者でも、いざ台本の役柄を演じると、別人のように変身するようなものですね。コンプレックスがバネになって行動の原点になっている。
Netflix『全裸監督』で柄本時生が演じた助監督のモデルとされるのが、AV監督の日比野正明なんですが、夜の街でキャバクラに通い詰め、半年間で300万円注ぎ込んでも、手しか握れなかった、という純なところがある(笑)。
私もキャバクラに行きながら、実は下戸だったという(笑)。これからも、自分をさらけ出して、世の中を書き留めていきたいと思っています」
「全裸監督」の傍らには、「全裸記者」がいたのだ。
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PROFILLE●本橋信宏(もとはし・のぶひろ)作家、ノンフィクションライター。
1956年埼玉県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。フリーランス記者、写真隔週誌編集長を経て、現在は、忘れ去られた英雄、集合写真で「1人おいて」とキャプションにある人物を追う。2016年刊行『全裸監督 村西とおる伝』(太田出版/新潮文庫)は2019年、2021年にNetflixで世界190ヶ国に配信され、大ヒットを記録する。他に、『裏本時代』『AV時代』『フルーツの夜』(幻冬舎アウトロー文庫)、『新・AV時代 全裸監督後の世界』(文春文庫)、『ベストセラー伝説』(新潮新書)、『新・巨乳バカ一代 野田義治の手腕と男気』(河出書房新社)、『出禁の男 テリー伊藤伝』『僕とジャニーズ』(イースト・プレス)、『アンダーグラウンド・ビートルズ』(共著・藤本国彦/毎日新聞出版)、『東京裏23区』『東京降りたことのない駅』(大洋図書)、『ハーフの子供たち」(角川新書)、『風俗体験ルポ やってみたらこうだった』『東京最後の異界鶯谷』(宝島SUGOI文庫)、「新橋アンダーグランド」「高田馬場アンダーグラウンド」「歌舞伎町アンダーグラウンド」(駒草出版)、『東京の異界渋谷円山町』『上野アンダーグラウンド』(新潮文庫)など多数。最新刊は『全裸編集部 青春戦記1980』(双葉社)。
取材・文/木原みぎわ