「若者のディズニー離れ」の真相は
ある段階まで、TDRはDオタたちの嗜好に合わせて変化を遂げていたといえるが、それもまた変わってきている。
それを表しているのが、近年、顕著になっているTDRの「高級化」だ。
ディズニー側は、今後の方針として「客数よりも満足度」を重視する方向性を挙げている。これは、観光全体のトレンドとも関係する。つまり、「量から質への転換」だ。
ディズニーの世界を、選ばれた人にだけより楽しませ、彼らから今まで以上に高いお金を取ることによって、全体の利益を上げていくのだ。まさに「選択と集中」だ。
それは、ここ10年ほどで倍近くにもなったチケット(パスポート)料金にも表れているし、かつては無料で取得できたファストパス(アトラクションの優先搭乗券のようなもの)が「ディズニー・プレミアアクセス」として課金制になったことにも顕著だろう。
また、一度買えば一年中行き放題だった「年間パスポート」(いわゆる、年パス)も廃止され、定額でそこに行き放題、ということもできなくなってしまった。
こうした高級化の裏側には、「Dオタの排除」もあると思われる。
本来なら、こうしたコア層は歓迎されるべきだ。しかし、これ以前のTDRでは、Dオタたちによる、過剰な「マナー違反の晒しあげ」などが問題になったり、あるいは一度買えば年中行き放題の「年パス」で繰り返しふらっとインパ(インパーク、ディズニーリゾートの中に入ること)する人々が多かった。
こうした行動は、一般客を遠ざけ、また年パスを使って繰り返し入園されることでパーク側の売り上げが落ちてしまう。
しかし、コロナ禍を機に年パスの制度は無くなり、それと相前後するように、ディズニーは入園客の量から質への転換を図った。今では「運営はDオタの方を向いてくれない」といった言葉もまことしやかに語られている。
もちろん、高くなっても熱狂的なDオタはTDRに通い続けるだろうが、特に年パスの廃止によって、少なくない数のDオタがTDRから離れていったことは容易に推察できる。
ちなみに、年パスが実質的に廃止された2020年には、「#Dヲタのディズニー離れ問題」というハッシュタグがSNS上で話題を呼ぶこともあった。
「量から質」を重視する流れの中で、Dオタの排除も進んでいったのである。
こうした料金の高騰により、一部では「もうTDRは金持ちしか行けない」なんて報道もある。また、それと共にネットを騒がせたのは「若者のディズニー離れ」という言葉。
発端はピンズバNEWSに掲載された「若者のディズニー離れが進む 10〜30代の利用者は約10%減 TDR知識王が語る分岐点『大人料金が1万円を超えた時』」だったかもしれないが、これを皮切りにさまざまな議論が噴出した。
そうした記事に対しては「いや、逆に『ディズニーの若者離れ』では?」といった反論もあった。
パークへの入場を「料金」によって変化させ、そこへ来られる客層を選んでいるのが、現在のTDRの姿であるといえるのかもしれない。
つまり、USJが「映画の世界」をテーマにすることをやめたように、TDRが「それまでのディズニー好き」とは異なる客層に向けた施策を打ち出しているのだ。
実際、こうしたTDRの方向性は、現状では成功していると思われる。というのも、度重なるチケットの値上げにもかかわらず、その客数は衰えることがなく、2024年3月決算では、過去最高益を記録したからだ。
「高くても来る」人を選んでいるからこそ、最高益を記録できるのだ(同時に、これは「高くても来る」ぐらいの魅力をTDRが作り続けているということだ)。
まさにテーマパークにおいても、「選択と集中」が進んでいる。それは、ディズニーがこれまで持っていた「テーマ性」という名の「ウォルトの理想」からの脱却であり、同時にそこに来る人々を選び、フォーカスを当てて楽しませるマーケティングの強化が行われているという意味でもある。
文/谷頭和希 写真/Shutterstock