ひとさじのはちみつを摂るのにベストな時間
お気に入りのはちみつが手に入ったら、はちみつ用のスプーンをそろえるのも楽しい。「これ!」という一本を決めてもいいが、毎日のことだから、気分によって使い分けて遊ぶのも悪くない。
金属がはちみつにふれると変質するので、必ず木のスプーンを使った方がいいと言う人もいる。はちみつは酸性なので、確かにアルミのスプーンなどは避けた方がいいかもしれない。
私は木やガラス、陶器などのスプーンも使うが、長めの薬さじを使ってはちみつをなめるのも大好きで、ステンレスなら大丈夫と思うことにしている。いずれにしても「このひとさじで元気になる」と思いつつ、なめるはちみつの美味しさは格別だ。
医薬品としてのはちみつの一番の得意分野は、傷ついた細胞、特に粘膜の修復だ。
そこで考えてみると、からだが細胞を修復させ、新しい細胞を生み出す時間帯は、夜の10時から午前2時までだという(だからその時間によい睡眠を取ることが健康や美容の秘訣であるとは、よく言われることだ)。
だとすれば、喉が痛いときも、胃の調子がよくない場合も、「寝る前に、はちみつを患部にぬりのばすつもりで、ゆっくり飲み込んでから休めば回復が早い」というのは、わかりやすい自然の理と言っていいだろう。
最近は、市販の咳止めシロップより、ひとさじのそばはちみつの方が、よく効いて眠れる可能性が高いという論文もあるほどだ*3。
喉が痛いときや咳が出るときなどは、上を向いてゆっくり頭をまわし、はちみつが喉の患部に当たるように意識しながら時間をかけて飲み込む。はちみつが当たったところは湿布を当てたかのようにひりひりとして、「ああ、きくきく!」という感じである。
寝る前に歯を磨いたそのあとで、はちみつみたいな甘いもの、なめちゃって大丈夫なの?と思われるかもしれない。ところがどっこい大丈夫などころか、はちみつを口中に広げることが、虫歯や歯周病の予防になるという*4。
これは昔ながらの使い方のようなのだが「甘いものはみな歯に悪い」と思い込んでいたから、初めて知ったときには、私もたまげた。
実際、「歯磨き後、寝る前のひとさじ」を始めてみると、朝起きたときの口の衛生状態が格段にアップしていることに、すぐ気づくと思う。
はちみつを寝る前に摂るといいもうひとつの理由は、はちみつに鎮静作用があり、ストレスを取り除く安眠剤でもあるからだ。はちみつの主成分がブドウ糖や果糖などの単糖類*5なので、これ以上消化する必要がないから胃に優しく、すぐに吸収されて頭にもからだにも速効の疲労回復剤となるのが大きいのだろう。
今日のひと口の蜜源となった花が咲き群れ、ハチたちが飛び回っていたのはどんなところだろうと想像する間に、一日の緊張はゆるりとほぐれ、ビタミンやミネラルがからだにしみこんでいく。
昼間の戦いを終え、傷んで疲れた細胞が癒やされ、慰められていく様子を思い浮かべつつ、ハチの羽音を聞き、あたりを満たす花の香りに包まれ、口中の甘い後味を楽しみながら、そしていつしか……。
ZZZ……と穏やかなときが訪れるのである。
図/書籍『新装版ひとすじのはちみつ 自然がくれた家庭医薬品の知恵』より
写真/shutterstock
脚注
*1 プリニウスが納税台帳で人々の寿命を調査したとき、養蜂家の長寿に感心したのは確かなようだが、中には150歳を超える記録もあったとされる。はちみつだけでなく台帳管理の鷹揚さも手伝った可能性は否定できないのでは……。
*2 生薬、製剤、試験法などの基準を定めた医薬品の規格書。国、地域ごとに制定されている。「日本薬局方」初版は、1886年(明治19年)に公布され、2025年現在、第18改正日本薬局方が公示されている。
*3 「咳をする子どもとその親の睡眠の質に及ぼす、はちみつ、デキストロメトルファン、無治療の場合の効果の比較」。2007年にアメリカで発表された研究論文。主要参考文献 Paul, I.M. et al. Effect of honey, dextromethorphan, and no treatment on nocturnal cough and sleep quality for coughing children and their parents. Archives of Pediatrics and Adolescent Medicine. 2007;161(12):11 40-46.
*4 「はちみつで歯を磨こう」『新装版ひとすじのはちみつ 自然がくれた家庭医薬品の知恵』(第4章)
*5 それ以上分解されない糖類
これまでに専門的な研究によって一般的な安全性や効用が発表され、広く確認されてきた素材やその活用法について、著者の経験を合わせながら紹介しています。しかし、どんなに安全性が高いとされる素材も、全ての人に相性がよいということはありません。「自分との相性」を注意深く確かめながら、自己判断の上で、活用するようにしてください。
また、はちみつは、幼児の発達と健康に大変よいとされているものの、過去にはちみつの中にボツリヌス菌が見つかったことがあることから、腸内細菌叢が未発達な1歳未満の乳児には与えるべきではないとされています。