効用のあるはちみつの条件

はちみつが、世の中で「お砂糖代わり」のような扱いになりかけた理由は、もしかすると、純粋はちみつではない加工はちみつが大量に出回ってしまい、本来の良さが伝わらなくなってしまったことと関係あるのかもしれないという気もする。

精製、加糖、加熱などの加工をされたはちみつには、巣のかけらなどの不純物を濾過しただけの天然の純粋はちみつが持つ医薬品としての効能などはほぼ期待できないし、栄養価も大きく損なわれているからだ。

たとえば、栗やそば、菩提樹(シナノキ)など、色が濃くて風味の強いはちみつほど、鉄や銅などのミネラルが特にたっぷり含まれていて、造血作用が豊かとされている。健康的なはちみつなので、ドイツやフランス、朝鮮半島などでは昔から人気が高いが、日本やアメリカではあまり好まれず、脱色脱臭精製してミネラルを取り去ってしまってから、製品として使うことも多いらしい。

でも、白パン白米全盛の時代を経て、今では日本やアメリカでも全粒粉のパンや玄米が人気になってきたから、黒いはちみつのファンもそのうちだんだん増えてくるかもしれず、はちみつ精製の状況も変わってくるかも、と期待をこめて思ったりする。

また、純粋なはちみつの場合、働きバチが花の蜜を集めてくるだけで、はちみつになるわけではない。ハチは運んできた蜜を巣に帰ってから吐き出して唾液の酵素と混ぜ、それを受け取る係のハチに引き渡す。

蜜の蔗糖はハチの持つ酵素でブドウ糖と果糖に分解されるのだ。花蜜は巣房に詰め込まれるが、働きバチの姉様たちは、せっせと羽ばたいて水分を飛ばし、蜜を濃縮していく。十分に濃縮されたらその後巣房はふたをされ、その中でゆっくり時間を過ごした蜜は次第に熟成されていく。

だが、早く製品にしたいからと自然の摂理を待ちきれず、急いで収穫したはちみつは完成しきっていないので水っぽい。

そこで、濃度を上げるために水あめや、「人工転化糖」(蔗糖をブドウ糖と果糖に人工的にせたもの)を混ぜた「加糖はちみつ」、水分を飛ばすために加熱した「加熱はちみつ」が作られるというわけだ。また、かさ増しのために水あめなどが加えられることもあるだろう。

いずれにしても加工はちみつの場合、他のものを加えたり加熱することによって、本来持つ栄養素の分量が減ったり変質してしまっていて、古来ほめたたえられてきたはちみつのめざましい効能は、見るかげもなくなってしまっているのである。

こんなにもあるはちみつの種類/書籍『新装版ひとさじのはちみつ 自然がくれた家庭医薬品の知恵』より
こんなにもあるはちみつの種類/書籍『新装版ひとさじのはちみつ 自然がくれた家庭医薬品の知恵』より

だから、はちみつを美味な「薬」として使おうとするなら、精製や加糖、加熱のない、天然の純粋な生はちみつを選ぶことが、まずは基本と言っていい。