盗食くり返す子ども時代、過食は「穴を埋める感覚」
幼児期から食欲旺盛だったというAさん。家族はそれを無邪気な子どもらしさだと考え、「大人になったら痩せるから」と鷹揚に構えていた。しかし、小学校入学の頃から様子が変わってくる。
「自分の分だけでは満足できなくて、妹のお菓子を盗んで食べるようになりました。二人の分として買ってもらったのに我慢できずに食べてしまう。家族の目が気になるし、食べることに罪悪感や自己嫌悪を抱くようになりました」
自分の食行動が普通ではないと、はっきり自覚するようになったのは中学2年生のときだ。同じ頃、急に勉強に意欲がなくなり、人目が怖くなった。運動部の顧問が厳しく、体型を指摘されたことも強く記憶に残っている。
「すぐ隣に祖母の家があって、よくお菓子をくれたので食べ物があることを知っていました。勝手に入って冷蔵庫をあさって、調味料まで食べました。近くに親のやっている自営業の事務所があったんですが、夜中に音を立てないよう裸足で窓から出て行って、盗んだ茶菓子や飲み物を立ったまま外で食べることが週に何度もありました」
最寄りのスーパーやコンビニまで車で10分以上かかる田舎だったため、万引きの機会はなかった。手に取るのは菓子パン、スナック菓子、揚げ物、アイス、ジュースなど味が濃くて高カロリーなもの。皿も箸も使わず、手づかみで口に詰め込む。
「自分でも取り繕えない感じが出てきて、なんでこんな風に隠れて食べているんだろう、何かおかしいと思いました。でもやめられなかった」
Aさんの過食には嘔吐が伴わないため、体重増加以外に見た目の変化はない。また、きっかけとなる特定の出来事があったわけでもない。
「常に胸のあたりがスースーして、穴が開いているみたいな感じで、それをどうにか埋めないと、と思って食べ物を詰め込む。お腹がパンパンになる感覚を“穴が埋まった”と錯覚して、ちょっと安心できる部分もありました。でも食べたら食べたで太るから、罪悪感も一緒についてくる」