取材中、取材対象者の女性が終始、頬や鼻筋を掻いていたのが気になった。
「皮膚が痒くなるのも、OD(オーバードーズ)の副作用なんです」
そう話しながら、アヤさん(26歳・仮名)は、自身が抱えているODの副作用を羅列する。
吐き気や目眩、記憶力の低下、息切れ動悸、発汗、異常な痒み、口がパサパサに乾く止渇感、うまく喋れないほどの震え……。
雨が降っていた取材当日に、「低気圧で頭痛がひどいから、取材時間を遅くして欲しい」と連絡が入ったのも、副作用による影響なのかもしれない。
薬は常時10種類近くを服用
アヤさんが定期的に飲んでいる薬は、市販薬や処方薬を合わせると10種類近くにおよぶ。
毎日欠かせないという咳止め薬の市販薬に加え、処方された抗うつ剤や睡眠導入剤、抗てんかん剤など、枚挙にいとまがない。
「今は、多汗などODによる副作用を抑える薬を飲んでいます。ここ最近は寝起きの倦怠感がひどくて、咳止め薬を20錠ぐらい飲まないと身体が動かないんです」
私がなぜODから抜け出せないのか、どのような末路をたどったのか、その危険性を伝えたい──。
そう語るアヤさんが、記憶を巡らせたのは小学5年生、両親が離婚したときだった。
「両親が離婚するとき、『ママとパパどっちについていきたい?』って言われて、2人とも好きだったので悲しくて。そのときに、市販の風邪薬でODしたら気が紛れたんです」
いわゆる「パキる」と表現される酩酊感に浸ることで、アヤさんは現実から目を背けた。
アヤさんと姉は、父についていったものの、父は外に恋人を作ってネグレクト気味だった。その後、2人は母に引き取られるも、母もまた恋人を作っては夜な夜な出かけ、娘たちの面倒を見ることは稀だった。
「ODの副作用で体調不良になると、ママが心配して構ってくれたのでうれしかった」
漠然とした寂しさから、アヤさんは定期的にODを繰り返した。
姉もまた、精神を病み、腕には日に日にリスカ痕が増えていった。そうした環境下で、アヤさんも自然とリスカを繰り返すようになった。