セルジオ・オリバの罠に嵌ったシュワルツネッガー
このような揺さぶりをかけられて平気な選手など、まずいないだろう。事実、私も心理戦を仕掛けるばかりではなく、動揺させられる側でもあった。
たとえば1969年、私はセルジオ・オリバの罠にまんまとはまり、心理戦とはいかなるものかを学んだ。
その大会の本番前、セルジオは始終、私の周りをうろついていた。丈の長いブッチャーコートを羽織り、肩をすぼめて、いかにもほっそりした印象を与えながら、である。
その様子を見て、さほど大きくない背部だな、と思ったのを私は今でも覚えている。その後、彼は部屋の隅に行き、オイルを塗り始めた。それでもなお、彼の体に目を引きつけられることはなかった。
が、次の瞬間、私は虚を突かれる。セルジオはステージに向かう途中、ちょうど照明が当たる場所で足を止め、私にこう言った。
「これを見ろよ!」彼の広背筋が広がっていく。
誓ってもいいが、それはかつて見たこともないほどの迫力だった。どうだ、敵わないだろ、セルジオは背中で語っていた。
図星だった。私はすっかり打ちのめされていた。たまらずフランコに目をやると、彼は照明のせいにしようとした。が、そうではないことは明らかだった。
ステージにいる間、セルジオは私のことを何度も「ベイビー」と呼んだ。彼は完全に舞台を支配し、楽しんでいた。「よぉ、ベイビー、すごいポーズを見せてやるぜ」といった調子で。
私には勝ち目がなかったと言えるだろう。だが、ここで留意したいのは、セルジオの肉体が真にすばらしいからこそ、そのような芸当ができたという点だ。
それほどでもない選手に同じようなことをされていたら、私はその選手を笑い者にしていただろう。
そう、肉体こそ相手を動揺させる一番強力な武器なのだ。
一言で言えば格の違い、つまり圧倒的な肉体を持ち、見せ方もわかっていることが最も効果的なのである。
文/アーノルド・シュワルツェネッガー