胃には「顔つき」がある…3000件以上の胃を肉眼で見てきた医師か語る、胃がんになる人となりにくい人の決定的な差
人間の胃の中で何が起きているか。普段、なかなか見ることはできない。3000件以上の胃の手術経験を持つ外科医・比企直樹医師は、胃の「顔つき」から健康状態を読み取り、早期発見・治療につなげてきた。比企医師が語る「胃がんの前触れ」とは?
著書『100年食べられる胃』より一部抜粋、再構成して胃の健康を守るための知見をお届けする。
ピロリ菌感染で一度荒れた胃は元に戻らない
また、ペットを介してのピロリ菌感染も注意したいものです。
ペットの犬や猫に口をなめられることでも、ピロリ菌を有しているペットから感染してしまうこともあります。ペットとのキス写真をSNSにあげている人を時折見かけますが、気をつけたほうがいいでしょう。
胃がんは中高年の病気と思っている人は多いと思いますが、医療の現場では、若い人でもまれではないことがわかっています。その理由には、この意外なところでのピロリ菌感染があるのではないかと思います。
公的な胃がん検診は40歳からですが、若い人も胃がんの可能性はありますので、まずはピロリ菌の有無だけでも確認しておくと安心です。感染していた場合は除去し、その後は定期的に胃カメラ(上部内視鏡検査)を受けてほしいと思います。
胃がんの原因となるピロリ菌。このピロリ菌の発見によって、胃についての考え方は大きく変わりました。
特に昔は、胃が荒れていれば即「加齢ですね」と言われていたものです。ところが、それはピロリ菌のせいであって、加齢のせいではなかったのです。
実際、私が内視鏡で診ている印象でも、ピロリ菌の感染がない胃は、80歳過ぎの高齢の方でも比較的きれいです。一方で、30代であっても、ピロリ菌に感染している胃は荒れています。つまり、胃を荒らし、胃がんに至らせるのは、加齢ではなくピロリ菌だったというわけです。
ピロリ菌に感染するのは多くの場合若いときですが、ピロリ菌の感染によって一度荒れてしまった胃は、元には戻りません。
そういう意味では、ピロリ菌を除去すれば胃がんを防げると思うのは間違いです。しかし、ピロリ菌の除菌後に、またピロリ菌に感染することは、非常に少ないことがわかっていますから、善は急げです。少しでもはやく対処してほしいと思います。
何より大切なのは、極力早く、ピロリ菌に胃を荒らされないうちに感染を見つけ、除去すること。そして、一度ピロリ菌に感染して荒れてしまった胃は、年に一度の検査を怠らないことが重要です。
文/比企直樹 写真/shutterstock
2025/2/28
1,540円(税込)
192ページ
ISBN: 978-4763141873
「生きる」ことは「食べる」ことです。
「生きる力」を高める、一生しっかり食べるための「胃」の話を、
胃がんトップ外科医が教えてくれました。
みなさんは、ご自分の「胃」のことをどのくらいご存じですか?
普段は暴飲暴食で無頓着、年に1回の健康診断で、ときどき思い出す……
くらいでしょうか?
胃には、食物を消化し、全身に栄養成分を送る役目だけでなく、
「食欲」そのものも司ることが、近年あきらかになりました。
消化の第1ステップにして、「食欲」を司る、
人体一の多機能臓器といえる「胃」。
その「胃」の外科手術で国内トップの腕を誇ると言われる比企直樹医師は、
手術において、胃の「ある部分」を残すことが、
手術後の健康と食欲を守ることを明らかにし、
その新しい手術方法を開発した医師。
3000をゆうに超える胃を見て、触れて、
誰よりも胃の真価とケアの大切さを知る医師が、
人生100年時代を健やかに生きるための、
胃とのつきあい方を教えてくれました。
胃そのもののことはもちろん、
病気のときの食べ方や、「筋力」を保つ方法もお伝えしています。
一生「食べられる」を守って元気に生きる秘訣がつまった本書。
ご自身はもちろん、ご家族の健やかな毎日のために、お役に立つこと請け合いです。
【目次より】
◎胃には「顔つき」がある
◎鍵は「胃の上部」にあり。生命力の源ホルモン「グレリン」を守れ
◎「糖質過多の食事」が逆流性食道炎の原因に!?
◎「内臓脂肪」が増えると逆流性食道炎になる理由
◎からだのあらゆる炎症は「胃が止まる」につながる
◎九死に一生を得る人は「栄養状態のいい人」だけ
◎誤嚥性肺炎につながる「口の衰え」を予防せよ
◎「心配なポリープ」「心配ないポリープ」どう見たらいい?
◎胃がんの原因の多くは「ピロリ菌」であることは間違いない
◎胃を全摘しないほうがよいこれだけの理由